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130.ソロプレイ
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瞳で嘆いて唇で誘い、伸ばした手で全てを手に入れようとする。気に入らないものは容赦なく壊すその手で、今の彼女は何を求めているのだろうか。掴まれた箇所に寄る皺を見つめながら、ぼんやりと考える。
けれど、日頃から欲のない恋人を見ているせいで、考えれば考える程に嫌悪が増すだけだった。
薄く笑って思考を中断した俺を、蛇光が軽く引き寄せる。
「あの……獅子原さんは、あたしがいると迷惑なんでしょうか?」
欲望という名の仮面を纏ったまま、蛇光は微笑む。けれど、どれだけ器用に隠しても、内側からは抑えきれない腐臭が漂っていた。
欲にまみれたその臭いは、容易には消えない。
類は友を呼ぶように、同類だからこそ知る腐った性根の臭いが、身体にまとわりついてくる。
彼女の腐臭によって頭痛が更に強くなり、思わず抑えた眉間の皺が深まる。
俺は出来るだけ臭いを嗅がないよう、細心の注意をはらって酸素を取り込んだ。
「蛇光さんのことを迷惑だなんて言う男がいるなら、ぜひ見てみたいですね」
自身に触れていた蛇光の腕をそっと掴む。丁寧にそれを外し、また息を吸い込んだ。ちっとも薄まらない腐臭に、こめかみにも痺れが走る。
「俺も、迷惑だと思ったことはないですよ」
「良かったです。安心しました」
こちらの返答に驚かないのは、それが当然だと思っているからだ。その思い込みの甚だしさに、わざとらしく微笑み返す。
「蛇光さんは、俺が迷惑だと感じることをした覚えがあるんですか?」
「いいえ。そんな覚えは、全く」
「それなら何も気にする必要はないですね」
言い終えた後に「でも……」と続ける。
「実は蛇光さんの存在そのものが、俺にとっては不愉快なんですよね。初めて会った時からずっと、失せろブスと思っていました」
にっこり笑って告げた俺を見つめる、2つの目。何かを言い返そうとする唇。それが動き出すよりも早く顔を近づける。
「ああ……近くで見ても、やっぱり不愉快です。どうやら俺は面食いらしくて、この距離だと耐えられないな……」
途端に頬を赤めたのは、演技ではないだろう。その恥じらう態度ですら気持ちが悪い。
そもそも、興味のない人間からのアプローチなんて、自慰を見せられているのと変わらない。勝手に始めて、勝手に終えてろ程度の認識だ。
それなのに、この女は汚い手で俺の大事なものに触れてしまった。
身勝手な自慰に慧を巻き込んだ代償は、お前が想像する以上に大きいのだと教えてやろう。
「蛇光さん」
赤く染まった頬に吐息を吹きかける。ふわり、と肌を撫でる吐息に蛇光が瞼を伏せ、掠れた声で俺の名前を呼んだ。
この期に及んで何を期待しているんだ、と漏れそうになる嘲笑を堪えて言う。
「蛇光さんの声って無駄に高くて、頭が痛くなるんですよね。匂いも好みではないので吐き気がしますし、何より気味の悪い笑顔が本当に苦手で。さっきも言った通り、あなたの存在全てが不快なんです。言動が迷惑だとか、そんな次元の話ではないんですよ」
早口で言い切った俺を見て、呆けたままの彼女が言い返す。
「気味が悪い……なんで。だって、今までそんなの言われた事なんてないのに」
「そうなんですか?それはそれは、随分と優しい方が周りに多かったんですね」
大げさに驚くふりをして、あえて数回だけ瞬いた。すると蛇光は、ほんの僅かにあった距離ですら詰めようとする。
咄嗟に身体を離した俺は、全くもって学習しない女を見下ろした。自分が既に笑えていないことに気づきながら、感情の赴くまま冷淡に告げる。
「端的に言ってやる。どれだけ誘われても俺はお前には勃たない。お前の欲求不満なんか知らない。俺には関係ない、面倒くさい。以上」
「──ッ、もう…………やだぁ!!」
沈黙の後、駐車場に響いたのはオカマの笑い声だった。外面を投げ捨てた俺と、固まる女を包み込むように、桃のバカ笑いが響き渡る。
「ちょっと、朝から勃つとか言わないでよ!!変な想像しちゃって、この後もう仕事にならないじゃない!」
静かな空間で桃の笑い声がこだまする中。
見下された上に笑われた蛇光は、ぷるぷると震えた。さっきとは別の意味で赤くなった顔は、やはり可愛くない。
これに興奮できる男の気が知れない。
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