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「桃さん、行きましょう」
「え?!」
隣で立ち竦んでいた桃さんの手を取り歩き出す。
「ちょ、ちょっと歩ちゃん?!」
「いいから来て」
後ろで竹虎さんがこちらを見ている。
早く2人を離したい…その一心で来た道を引き返す。
たとえこれが、その場しのぎの行動でもいい。
「待って待って!電車来ちゃうから!」
「待たない。知らない」
「ダメよ。離して!!」
「嫌です」
いくら遅い時間だとはいえ、人のいる所で何をしているんだろう。
そんな事すら今の俺には考えられない。
もしかしたら運命の再会…なのかもしれない、とか
お互いにそれを願っていて、やっと叶ったとか。
俺の頭に浮かぶのは嫌な想像ばかりだ。
「離したら駄目だって俺でもわかる」
「歩ちゃん、」
「離したらどこか行っちゃうだろ?
もう手が届かなくなるんだろ?」
そらされた目は肯定。
俺に向いていたはずの気持ちは簡単に遠ざかってしまう。
それは、俺と桃さんを繋ぐモノが脆いからなのか。
桃さんと竹虎さんを繋ぐモノが強いからなのか。
わからない…けれど、そんなの関係ない。
脆いなら俺が繋ぎとめてやる。
偶然の再会なんかに負けない。
偶然を運命になんかしない。
全部…俺の手で壊してやる。
「このまま一緒に来て」
「明日も仕事が、」
「朝まででいいから。子供だと思ってくれていい。
どうしようもないやつと思ってくれていいから」
「……」
力なく首を振る。
それなら…どうして手を振りほどこうとしないのか。
「何もしないって約束するから。
一緒にいてくれるだけでいい」
強がる心とは裏腹に、まるで懇願するような言葉が出て情けない。
必死に訴える俺に桃さんは黙っているだけだった。
俯いた顔。引いた身体は、おとなしく足を進める。
さっき桃さんを引きずり込んだ物陰が視界の端に映る。
軽く触れるだけのキスに喜んでいた自分。
全て思い通りにいっていると疑わなかった自分。
あの時も胸が痛くなったのに…。
それは今の痛みとは全く違っていた。
迫ってくる見えない影。
都合の悪いことは見なければいい。
そんな子供っぽい自分に嫌気がさして、俺は物陰を見ないよう前を向く。
家に着くまで2人の間に会話は一切なかった。
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