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「歩ちゃん?」
名前を呼んだあたしに微笑んで彼は部屋を出て行った。
昨日のことが気まずいのはお互い様で、ぎこちなさはあるけれど……なんだか変だった。
怒ってるわけでもなく悲しそうでもない表情。
それがやけに胸に突っかかる。
その後は4人がお祝いしてくれて楽しかった……それなのに心には靄がかかったまま。
どうしてかはわかっている。
あたしはそれほど鈍くない。
でも気づかないフリをしなきゃいけない。
……本当にそうなんだろうか?
何が正しいのかわからない。
どうするべきかわからなくて……でも、それは嘘だ。
自分のことは自分が1番知っているから。
みんなと別れて家へ帰り、花束を花瓶に移そうと包装に手をかけた。
そこから何かが落ちる。
拾いあげた紙に書かれているのは、忘れもしない…忘れてはいけない彼の文字。
それを見て……やっと気づいた。
何かを言いかけて淀むあの日の歩ちゃんの様子。
彼らしくない不安げな言葉。
そして今日の「最後」の意味。
子供だと、バカな事ばかりしないでと言っていた自分に嫌気がさした。
「………1番バカなのは誰だよ」
全て上手く隠してきたのに。
これからもゆらゆら漂って生きていくはずだったのに。
もう誰も好きにならず、誰からも好意を寄せられないようにしてきたのに。
本気の感情はあたしを追い詰めるだけだ。
真っ直ぐにあたしを見てくれる彼が怖かった。
もしその手をとって、また壊してしまったら…そう思うと逃げたくなる。
わざと距離をとったのに、それを易々と超えてくる。そして遠慮なく人の禁忌に触れてくる。
傷つけないようにとった行動が逆に彼を傷つけた。
この花を贈ってくれた時の何とも言えない表情。
自分より10歳以上も年下の子に…気づかされるなんて。
「情けねぇなぁ………」
情けない情けない情けない。
もう既に捕まっていたくせに。
嬉しかったくせに。
拒んだ理由はこじつけばかりで本心じゃない。
越えなければならない壁は多いけれど、そんなの本当は構わない。
あとは自分次第。
「………ここで逃げてちゃただのオカマだよなぁ」
傷つけたくない。悲しませたくない。
きっとこれがあたしの、俺の最後の恋になる。
いや、最後の恋にしてみせる。
もう同じ失敗はしない。
『自分の事は自分で何とかしてみせろ』
協力するんじゃなくあたしを焚きつけた悪友の顔が浮かぶ。
こうなる事が分かっていて、リカはああ言ったのかもしれない。
上手く乗せられている気もするけれど…。
頑固なあたしを動かせるのは自分自身だ。
手の中の紙をもう一度読んで…あたしの心は決まった。
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