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『ごめん遅くなった』
リビングを出た俺は、すぐに通話のボタンを押した。
小声で応えながら廊下を進み部屋に入る。
「今寝ようとしてたのに…起こしてんじゃねぇよ」
『嘘つき。ドア閉まる音聞こえたんだけど』
電話口からはリカちゃんの落ち着いた声と水の流れる音が聞こえる。
「風呂?」
思い当たる場所を口にすれば『バカ』と呆れた声。
『誰が風呂で電話すんだよ。庭の小川の音』
庭に川…どんな家だ。
なんとなく想像するのはセレブなお屋敷だ。
『……はぁ』
深いため息にリカちゃんが疲れているのを知る。
それでも約束通り電話をくれるところに俺の疲れは飛んでいった。
『親父さんと話せた?』
「あぁ…うん、まぁ。好きにしろって言われた」
思い出すのはあの興味のなさそうな顔と冷たい声。
忘れかけていた嫌な気持ちが蘇る。
『それでお前も投げやりになってねぇよな?
俺はちゃんと話せって言ったんだぞ』
「話すも何も聞きやしねぇよ。
全部兄ちゃんに任せっきりなんだから」
『兄ちゃんって恒二か。恒二とは上手くやってる?』
上手く……あれを上手くと言えるかは別として問題は起こしていない。当たり障りなく、が正しい。
「まぁ。恒兄ちゃん結婚するんだって」
『へぇ。あの生真面目君が?25で結婚て早ぇな』
「愛のあるお見合い結婚だって言ってた。
………あと、リカちゃんのこと聞かれた」
きっと恒兄ちゃんはリカって名前の女の子だと勘違いしてると思うけど。
『そう。なんて?』
「恋人かって」
まさか結婚の話まで出てたなんて言えないから、それだけ口早に言う。
するとリカちゃんは電話の向こうで微かに笑った。
「なんだよ」
『いや、別に。ちゃんと婚約してますって答えた?』
「そっ…そんなの言えるわけねぇだろ。高校生のくせにバカかって返されるに決まってる」
あの恒兄ちゃんに冗談なんか通じない。
それこそまだ早いとか言って結婚について1から10まで丁寧に説明されるはずだ。
大体、高校生相手にプ…プロポーズ予約するのなんてリカちゃんぐらいだろう。
それなのにそのリカちゃん本人は言わなかったのが気に入らないらしく声を1トーン落として呟いた。
『ふぅん。自分が誰のものかまだ自覚してないんだ?
もう一度初めから躾直してやろうか』
きっと電話の向こうで、あの黒い瞳を細め意地悪く笑ってるに違いない。
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