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スマホだけ持って目的地へ向かう。スーパーの入口では先についていたリカちゃんが壁にもたれて立っていた。
ぼんやり宙を見ながら立っている姿に、仕事帰りの疲れが見て取れて胸が痛くなった。
俺…何してんだろう。あんなにも疲れてるのにワガママ言って振り回して。それに相手してくれなきゃ拗ねて。
自己嫌悪で足が止まった俺に気づいたリカちゃんが近寄ってくる。
「どうした?腹減り過ぎて動けなくなった?」
絶対。絶対にリカちゃんも気づいてる。俺の様子が変なのも、俺がリカちゃんを怪しんでるのも。
それでも何も言ってこないのは…なんでだろう。
俺は何も知らないフリを続けるべきか、言うべきか今も迷ってるんだ。
「慧は何が食べたい?」
自然と伸ばされた手。俺の肩を抱き寄せる強い力に甘い匂い。
今だって十分満たされてる。それなのに次が欲しい俺は自分で自分がわからなくなってる。
「リカちゃん」
「ん?」
「…ありが……、疲れてるのに悪い」
なんだか「ありがとう」って言うのは違う気がした。
俺はリカちゃんが自分を優先してくれてるか試してる。そんな俺が「ありがとう」なんて言っちゃいけない。
ここで礼を言ったらもっと自分を汚く思ってしまうような気がしたんだ。
「……俺もまだ力不足かな」
「え?」
「自分の都合で恋人に気を遣わせるなんて男として情けない」
目線の上にあるリカちゃんの黒い瞳が俺を映す。
「悪い。腹減ってんだから早く帰らないと」
こんなことなら人付き合いが苦手だって逃げてこなきゃよかった。もっと色々なヤツを見て、色々な事を知って経験を積んでくればよかった。
リカちゃんが全部初めて…だから俺だけだって言われるのが当然で、リカちゃんが他のヤツと一緒にいるのが許せない。
たとえそれがどんな理由でも俺以外といるだけで裏切りだと思ってしまう……のは考えすぎ、なのかな。
「リカちゃんは俺に嘘つかないんだよな?」
「つかない。何でも作ってやるから好きなの言えよ」
「わかった」
肩に回されていた手を取り、ギュっと握る。
「慧君。さすがにここじゃ手は繋げないかなー」
「それぐらい俺でもわかる」
「じゃあ離してくんない?」
「やだ」
困ったように笑いながらも俺の手を振りほどくことはしない。リカちゃんからは絶対に俺を離したりしない。
「お前デレんなら外じゃなく家でにしろよ。こんなとこじゃナニもできねぇ」
「ナニするつもりだよ変態」
「その変態を離さないのは誰だよエロウサギ」
閉店が近く、ほとんど人のいない店内。それでも男同士が手を繋いでるのはおかしい。
そっと離した手から温もりが消えていく。
「慧君はオムライスとチャーハンどっちが好き?」
「チャーハン」
「了解。ちなみに俺は慧君が1番好き」
サラッとそんなことを言いながらも視線は食材に向けたまま。慣れた様子で選び、かごに入れて俺を見る。悪戯に笑いながら。
「飯と同じ扱いしてんじゃねぇ」
「衣食住は生活の基本だろ?今の俺はお前の為に生きてるからね」
「そういうのマジ重たい」
リカちゃんがカゴに入れたブロッコリーを売り場に戻しながら悪態をつく。
それでもこの先ずっと俺だけの為に生きていればいいと思う俺は『重たい』なんて言葉でも足りないぐらい異常なんだろう。
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