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「お前はそろそろ我慢を覚えろ。それが無理なら、せめて要領よくやれよ」
「……要領よくやれって言っていいのかよ」
「別に。結果さえ出せばどうしようが何も言わない」
掴んでいた髪を離し、撫でるように整える。やめろと怒ると思った歩は黙ったままそれを受け入れている。目の前で繰り広げられるブラコンっぷりにイライラするけれど…。
それでもリカちゃんの言ってることは正しい。後半以外はな。
「リカちゃん、用があったんじゃねぇの?」
放っておけばいつまでも続きそうな2人のじゃれ合いに俺は声をかけた。歩を見ていた視線が俺に向くことに満足して続ける。
「わざわざ探してたんだろ?」
「あぁ…つっても用があんのは残念ながら慧君じゃないんだよ」
てっきり俺に用があるんだと思っていたのに、目的は俺じゃなかったらしい。
リカちゃんが探していた人物を見る。日頃の習慣でビクッと身体を震えさせて恐る恐る自分を指さした。
「お…俺?」
「どう見てもお前だな」
「な、なんで?」
「それは俺が聞きたいんだけど」
怒られてるわけじゃないのに縮こまる拓海と怒ってるわけじゃないのに笑顔が怖いリカちゃん。そんな2人の間に座る俺はちょっと不満。
「とりあえず座れば?」
「いや、スーツ汚れるからいい」
座れと示した隣にさえ来てくれず、リカちゃんはタバコに火を点ける。俺たちに煙が向かないよう、風下に移動して煙を吐き出してから今度は3人に向かって笑いかける。けど次にその瞳に映すのは拓海だ。
「鳥飼。お前、豊に何した?」
ジッと拓海を見て、拓海が答える前にリカちゃんが先に口を開いた。
「違うか。何か言った?」
「豊さんに?俺が?」
俺と歩も拓海を見るけれど、3人の視線を集める張本人は本当に心当たりがないのか間抜け顔のまま。
「やっぱりな。お前に心当たりないってことは問題はアイツの方か」
スラックスのポケットからスマホを取り出し、少し操作したあと耳に当てる。
すぐに出た電話の相手との会話。その話し方だけで相手が誰だかわかる。
「こっちは特に何もないみたいだけど。いいよ、仕事終わったら向かうから現地集合ってことで。
豊はお前が引きずってでも連れて来いよ……知るか。頑張れよ桃太郎」
言うだけ言って電話を切ったリカちゃんが短くなったタバコを捨て、歩き始めた。
今度こそ俺の隣にしゃがみこみ、膝を抱えた腕に顎を乗せて笑う。
その様子は歩に向けてた先生モードでも、拓海に向けてた真面目モードでもない俺だけの甘いリカちゃんだ。
視線も声も雰囲気もさっきまでとガラリと変わって、今は俺だけを見る。
「ってことで今日は帰るの遅くなると思う。ちゃんとお前のとこに帰るから許してね慧君」
「うっざ。別になにも言ってねぇだろ」
「ただ俺が言いたかっただけ。じゃあ午後の授業も頑張れよ」
俺の頭を撫で、リカちゃんは颯爽と去っていく。
なんだよ。俺が言いたかっただけ…なんて嘘だ。また俺が不安にならないように、けど気にさせないようにわざと軽く言ったくせに。
リカちゃんって本当、人のこと見てないようで見てて、どうでもいいフリしてちゃんと気にしてる。歩のことにしても美馬さんのことにしても。桃ちゃんも拓海も。
俺は何もしない助けてやらないって言いながら自分のできることを探してる。
答えを与えるんじゃなくてその手助けをするって感じ。
リカちゃんはやっぱり先生で、俺のずっとずっと前にいる。いっぱい悩むことはあるけど…俺が選ぶのはリカちゃんだ。
父さんが来ることは本当に嫌だし憂鬱。
また何か言われるかもしれない。呆れた冷たい目で見られるかもしれない。
それでも俺はリカちゃんといることを選ぶんだ。
そう思うと、懇談もなんとかなりそうに思えた。
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