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自分の頬を撫でるリカちゃんの恨めしそうな視線。それを無視する俺と、唸るリカちゃんを見比べたお父さんが「うむ」と頷く。
「あれだな、お前たちは理佳が主導権を握っているように見えて天使ちゃんが上なんだな」
「こう見えてうちの慧君は亭主関白なんだよ。同じところ狙ってくるとかマジ容赦ねぇ…」
「それはいいことじゃないか。お前の母さんも、お前が生まれて強かになったからね……それまでは虫も殺せない人だったのに気づけば笑いながら踏み潰していたよ」
久しぶりに会いたいなぁ、と呟いたのをリカちゃんが睨む。何か理由があるのかリカちゃんのお父さんが苦笑いでごまかした。
車を取ってくるから待ってろとリカちゃんに言われ、俺たちは門の前に2人で立った。
リカちゃんが離れ、見えなくなったところでお父さんが俺を呼ぶ。
「慧くん」
天使ちゃんなんてふざけた呼び方じゃなく、ちゃんとした名前。向いた先には真剣な、男の顔をした大人が立っていた。
「理佳が父さんに出した紙の意味、君にはわかる?」
リカちゃんが持っていた2枚の紙。お爺さんが受け取らなかったそれのことを言ってるのだろう。
今もその意味がわからない俺は首を振った。
「別にね、あんなの出す必要なんてないんだよ。正式に放棄したんなら家の仕事を手伝う必要もない。わざわざ縁を切ってくれなんて言わなくてもいい」
「じゃあなんでリカちゃんは、わざわざあんな事を?」
「君はまだ若いから戸籍とか言われてもピンとこないだろうね」
それに素直に頷く。するとお父さんは、外を覗いてリカちゃんがまだ戻って来ていないことを確認した。
「普通、親の戸籍から抜ける時ってどんな時だと思う?」
まず戸籍ってのが何なのかわかっていない俺にとって、その質問さえ答えられない。
黙っているとお父さんはリカちゃんが教えてくれないだろう、その意味を教えてくれた。
「色々と理由はあるけれど一般的には婚姻、誰かと結婚する時に抜けるのが自然だろうね」
「結婚?!」
「一般的にはね。これをしたからって親子の縁が切れるわけじゃない。ただ、理佳なりのけじめのつけ方なんだと私は解釈したんだけど…あいつならあり得るなと思って」
俺を上から下まで眺めたお父さんは何かに納得したのか緩く笑った。
「天使ちゃんのその様子じゃまだ準備段階ってところかな。ここまでされて理佳が怖くなった?」
「怖い…とは思わないけど。正直に言ってまだ意味がわかってないからかも」
頭が追いつかない俺はそう答えた。てっきり誰かさんみたいにバカって言われるかと思ったのに、笑ってくれる。
リカちゃんのお父さんは、ふざけた事ばっかり言ってるけどきっと凄い人。他に言葉が見つからないぐらい不思議な人だ。
そんなお父さんが俺の頭を撫でた。
「私は理佳が少し怖いよ。自分の息子なのに変な話だと思うだろう?」
「俺は……」
リカちゃんを怖いと思うか、考えて出た答えは『思わない』だ。でもお父さんの気持ちもなんとなくわかる。
それを説明する言葉が俺には無い。
なんて答えるのが正しいのかわからないけれど、自分なりに返した。
「俺もリカちゃんが何考えてるかわかんないけど…でも、リカちゃんはバカだと思う。平凡な俺じゃ理解できないのは当たり前なんだって諦めた」
「……なるほど。いや、うちの息子のような面倒な男に捕まって災難だって思うよ。私が天使ちゃんの親なら心配で夜も眠れない」
お父さんはそう言うけれど絶対に嘘だ。だってそんなこと思ってるような顔じゃなく、すっげぇ嬉しそうにしてる。
そして笑顔のまま家を振り返り、見上げる。
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