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蘇るは去年の忌まわしい記憶……その上、今年の誕生日は喧嘩どころかまさかの家出ときた。また眩暈が襲ってきて頭を抱える。
甘えてきたと思えば余所余所しくなり、ついには家出。その思い切りの良さに拍手を送りたいぐらいだ…が、もちろんそんな事はしない。
冷蔵庫にしまったケーキが、本当に無駄になったなんてどうでもいい。薄っぺらい無機質なメモを握りつぶす。
取り返しのつかない失敗をしてしまった自分が情けなく、かといって今連れ戻しに行っても門前払いなのは明白だ。あの隠れ親バカなウサギの父親が、自分を頼って帰ってきた息子を返してくれるとも思えない。
今頃は鼻の下を伸びきらせ、それを悟られまいと必死だろうことは容易に想像がつく。
「やられた…」
成長した、大人になったと思った矢先のウサギの行動に本日何度目かのため息が出る。深く、長すぎるそれが部屋に消え、残されたのは寂しすぎる男1人とぬいぐるみ1体。
「………ケーキ、食べるか?」
問いかけた先のうさぎは答えず動かず、ソファに転がっている。1人じゃ何もする気になれなくて、疲れ切った身体が欲するのはアルコール。
ウサギと一緒の時は滅多に飲まないそれが、体内を駆け巡る。
抱かれて善がる可愛い姿に、強がる姿。それを見て忘れていたが、ウサギは基本的な行動は男らしい。その証拠にメモ以外の連絡は一切ない。
ケーキをつまみに飲んだ酒は大して美味くもなく、余計虚しくなるだけだ。
こんな事なら隣に住む桃にやれば良かった、と思いながらも、なんとか1つだけは完食する。残りは一縷の望みをかけて冷蔵庫に閉まった。
「はぁ…寒い」
1人分空いたスペースに、なかなか温まらないベッドの中。伸ばした手は宙を切り、誰も使うことのない枕へと落ちる。
スマホのフォルダを開いて眺めるのは慧君の寝顔に寝顔に怒った顔に、やっぱり寝顔。まともな写真を撮らせてくれない彼の、盗み撮りばかりだ。
「……寒い」
28年を目前に生きてきて、これほど虚しい夜はない。一方的に突きつけられた怒りに、為す術もなく1日を終える。
その日のおやすみのちゅー、そして翌日のおはようのちゅーは次回繰り越しということにした。
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