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おかえりの後で(まき side)
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目が覚めると、頬が涙で冷たくなっている。
さっきまで見てた夢が酷いものだったのか、それとも、これから見える現実が嫌で覚めたくないと体が抵抗しているのか。
昨日、あれから慎太郎と別れ、いつものように家に帰った。
いつものように、自室に通学鞄を投げ入れ脱いだ靴下を洗濯機へ放り込み、音も明かりもない部屋を見渡しては、勝手に傷付き落ち込んでいる。
今日は、いつもよりも酷かった。
いつの間に俺はこんなに弱くなってしまったのか。
ひとりが寂しいと感じるようになったのは、ふたりでいる時の気持ちを知ってしまったからだ。
いつもいつも、重い扉を開けた先にある暗く静かな廊下を目の前にする度に俺は、どうしようもなく苦しくなって、どうしようもなく会いたくなる。
だからいつも、さっさと風呂に入って歯を磨いて、考える間もなく寝ようとしているのに。
洗面所やリビングには、嫌でもあいつの私物が目に入る。その度思い出すのはあいつの匂い、声、体温。
服なんか畳んだっていつ帰ってくるかわからないのに、まるで願掛けるみたいにシワをひとつひとつ丁寧に伸ばして。
本当、馬鹿みたいだ。
大きく首元の開いた、薄い生地のボードネックに小さな輪じみが出来た。
ぽたぽたと、ただ視界を歪ませるだけの涙は次々と目から溢れ出て、拭いきれなかった量が頬を伝ってあいつの服に落ちていく。
なにも、どうも思わないように生活しようと思ったけどそんなの無理だ。
こんな服、こんな、ただデカいだけの服をいつの間にか抱き締めてる。
次いつ着られるかも分からないこんな布を俺は、毎日大事に畳んでいる。
そして今日、この瞬間も、早く帰ってこいと願を掛けながら丁寧に服のシワを伸ばしている。
あの胸の厚みに、あたたかさに、心地いいにおいに包まれて、名前を呼んでもらえたらどんなに幸せだろうか。
涙で濡れてしまった服を抱きながら、ごしごしと濡れた目を強引に擦った。
もう一回洗わないとって洗面所に足を運んだはずが、いつの間にかベッドにダイブしていた。
このまま眠りについても、神様は怒らないだろう。少しだけ、少しの間だけ、この服に包まれて眠ろう。
起きたらこの服を着た鬼塚が目の前にいたらいいのにな。
夢でもいいから、抱き締めてくれたら、少しでも俺は救われるのに。
そう強く思いながら眠りについたせいか、
本当に、鬼塚の夢を見た。
そうだ、だからこんなにも苦しい気持ちなんだ。
あのままずっと冷めないで欲しかった。
もっと触れていたかったのに。
あのまま、大きな背中を抱き締めたまま離さなければ、夢から覚めることはなかったのに。
起き上がり、夢の中でも非力な手の平を睨んだ。
シーツの中にはくしゃくしゃになった鬼塚の服があって、取り出して洗濯機に入れようとベッドから立ち上がった瞬間に嫌な予感が脳裏を過る。
その後わずかコンマ2秒で悟った。
ここは俺のベッドの上ではない。
俺のベッドの上でもなければ俺の部屋の中でもない。鬼塚の部屋だ。
鬼塚の部屋に鬼塚のベッドに鬼塚の服。しかもしわくちゃ。
こんなとこ本人に見られたらどうなるか。
・・・なんて、ありもしないことに焦るのは止めて大人しく顔を洗おう。
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