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プロローグ小さな町1
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(瑞季語り)
世界は広い。
果てしない空、どこまでも深い海、大都会に、だだっ広い砂漠。
今はテレビをつければいつでも見れる。
スマホとパソコンがあれば殆ど何でもできる。
なのに、俺はこんな小さな海辺の田舎町にいるのか。
町を出ることさえ叶わない自分を不幸だと思った。
5月の風は夏のものと大差なく、生温さと湿気を含んでいた。
それに、飽きるほど嗅いで体に染みついている潮の香り。
落ち着くと言えば、落ち着く。
誰もいない堤防で自分の周りの世界を悲観しながら、俺は昼寝をしていた。
いつもの現実逃避と、つまらない日々への不満は眠気と共に薄れていく。
「おい、瑞季起きろよ。またサボりやがって。」
頭をコツコツと足で蹴られて目が覚めた。
痛ってえな。
薄目を開けると康介が見えた。後ろにいるのはたぶん達也だ。
相変わらず達也は俺に何も話さない。
「お前の担任怒ってたぞ。また授業抜けただろ。」
「あはは。バレてた?」
「バレるに決まってるじゃん。アホだな。単細胞。」
いつもの康介節を聞きながら、俺は起き上がった。
今日の波は静かだ。
静かすぎて魚が捕れないとじいちゃんが言っていたっけ。
「なあ、康介、今から泳がないか?」
「まだ5月だぞ。風邪ひくから嫌だ。」
康介の言葉を無視して、俺は靴と靴下を脱いだ。
少し準備運動っぽいことをして、助走を付けるため十数メートル後ろに下がる。
両手を広げて深呼吸をした。
空が、海が、俺に染み込んでいく。
「早川瑞季行きまーす。」
「ほんとバカだな。」
康介うるせーよ。
全速力で走り出して、堤防の端手前で一気にジャンプした。体が宙に投げ出されて、自由を感じる。
無重力状態で、ふわりと体が浮いた。
次の瞬間、冷たい海の中へとダイブした。
ブクブクブクと水の中に体が沈んでいく。
何百回もこの堤防から飛び込んだ。
寒いけど気持ちよくて、この時が俺の解放される時だと感じる。
海水を目一杯堪能して水面から顔を出すと、暖かな5月の日差しが俺を照らした。
プカプカと立ち泳ぎをしながら浮かび、遠くいる康介達に手を振った。
「気持ちいいーーよお。」
康介が俺の後ろを指差して、しきりに何かを伝えようとしている。
反対側からガソリンの匂いとエンジン音が聞こえてきた。
「こらーまた瑞季か。あそこから飛び込むなっていつも言ってるだろうが。」
やべっ、源さんに見つかった。
源さんの愛船『真田丸』が俺に近づいてきた。
また怒られる。
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