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ギターを弾く男の話のおわり
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加藤はその後、何事もなかったかのように普通に生活した。会社で働いて、上司に誘われれば、体調の悪いとき以外にはOKして飲みに行って、宴会にも参加して、友人も何人かいる。恋人は相変わらず作っていない。
唯一変わったところといえば、定期的に薔薇の花園へ行くようになったことだろう。
加藤はそこへ行って、ジュリエッタやナンシー、ジュディと話す。全員付くものは付いている。加藤はときどき女装をした。女になりたいわけではないが、ただ、馬鹿馬鹿しい自分を見て笑った。そして自前のギターを弾いて歌を歌う。他の客からチップをもらう。ゲラゲラと笑う。
風の噂で、男が音楽をやめたと聞いた。
今はホテルの従業員をしてるだとか、自殺しただとか、まだ生きてるだとか、根も葉もよくわからない噂がさらに流れてくる。
佐々木がどこから聞いたのか、加藤を訪ねて花園にやってきたこともある。あの男に会えと言っていたが、加藤は応じなかった。もしかしたら、そのとき男は死にそうだったのかもしれない。もしくはまた復縁をせがんできていたのかもしれない。今となっては後の祭だ。とにかく加藤は思い出も全て捨てた。
「ね、あんた、今、幸せ?」
ある日、店でジュリエッタに聞かれたことがある。加藤は考えることなく言った。
「わからない。でも清々しい気分だ。」
加藤はドレスの裾を足で躍らせた。すね毛を剃った足は、加藤が思っていたより綺麗だった。また、伸びきったころに剃ろう。そしてまたドレスを着て、そんな自分を笑おう。そして自分のために歌おう。加藤はそう思って鼻歌を歌った。
加藤は自分が思っているより幸せだった。
おわり。
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