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MVP狙いです。
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プログラムは順調に進んでいく。
玉入れは田中の執念で勝つことができた。
「矢作!!」
決着の着いた瞬間、涙目になった田中に抱きつかれた。細い田中だけど、抱きしめる力は強くてびっくりした。ってか、まだ1回しか勝ってないけど優勝したような喜び方に笑ってしまう。俺も嬉しくなって2人抱き合って喜んでたら、玉入れ仲間に引っ張られて退場した。
「優羽!田中!おめでとう」
クラスメイトの労いに、田中はドヤ顔で手を挙げて応えていて、俺はその横でグランドを見ていた。
午前中はほぼ予選で終わり、午後から決勝や応援合戦などの花形競技が行われる。
何度も目にする彼は真面目に競技に取り組んでいて、勝ち進む度に溢れんばかりの笑顔で周りの皆と喜びを分かちあっている。釣られてこっちまで笑ってしまって慌てて笑みを引っ込める。
「優羽」
後ろから肩に回された手を、声で分かった俺はその手をペしっと叩いた。
「痛え」
そのまま、体重をかけて乗ってくる山根に 重い と訴えても無視される。
「暑いー。ダルいー。優羽が構ってくれなーい」
わざとらしい裏声で耳元で喚かれて、鬱陶しさ半分、気を紛らわせてくれようとしてるのが分かって嬉し恥ずかし半分だ。
「あ、虹太兄ちゃんだ」
視線の先では、凛と瓜二つの虹太兄ちゃんが走っているのが見えた。普段はおちゃらけているけど、真剣な表情で走る彼は本当に格好いい。その証拠に、女子の黄色い声が賑やかだ。
「あー、目立つなやっぱり」
「目立ってなんぼだもんね、MVPになるって」
「...転べ」
同じくMVPを狙っている山根は恐ろし事を口にする。...と、ほんとに虹太兄ちゃんの足がもつれて豪快に転んでしまった。
「えっ!?」
「えっ!?」
呪いをかけた山根本人も驚いているし、あんなに賑やかだったのに瞬間に無音になった。
痛ぇ、と虹太兄ちゃんの呟きも聞こえてくるほどの静寂の中凄い勢いで虹太兄ちゃんに近づく影。
「虹太!大丈夫か!?」
彫りの深いイケメン、須田さんだ。
須田さんは虹太兄ちゃんをお姫様抱っこした!
途端に色めきだつ周囲。
先程以上の黄色い声!声!!声!!!が爆発した。
「ば、バカっ大丈夫だって。下ろせよ」
「いやいやいや、血、出てるし!」
「いやいやいや、下ろせって」
「いやいやいや、だめっしょ。こら、暴れんな!」
その一言で大人しくなる虹太兄ちゃん。顔を両手で覆っている。優しい須田さんの意外な漢気に更に色めきだつ周囲。
そして、そのまま退場して行った。
「...」
「...やられた」
「え?」
あまりのことに呆気にとられていると、山根の悔しそうな声。
「...あの人、指の隙間から俺見て笑ってたぞ」
「...え?」
MVPは、目立ってなんぼ。
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