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理科室の隅っこ。花道部は新入生の部員がいなくて、二年と三年の先輩達全員で五名。要するに、俺たち三人が入部しないと今後の活動が厳しい弱小部。
「ここにある花の包みを一つ取って、それからあのテーブルに並んでる花器を一つ選んでみて。好きなのでいいよ。」
説明によれば月々にかかった花代を払い、生ける。だから活動も毎日とはいかなくて、週に一度か二度。でも、俺にはそれでも無理。アルバイトもあるし。
「いや、俺は見学で。」
花を生けるとか、まじ無理。
「はあ?それは俺の役目だっつの、お前はやれよ。」
はあ?ってのが耳に付く。よく言ってるな。口癖か。
「至を見ろ。もうすでに得体の知れない皿に針を乗せてる。あんなふうにやれ。」
先輩の指導で、いたるはくにゃりと曲がった形の深い皿に針の山、剣山を置いて水を入れている。さっきまで、すごい花を見に行くとウキウキしてたのに、何だこの順応性。
「…つか、俺は関係ないだろ。大体さ、名前も知らない奴に付き合うとか何だよ。」
「はあ?名前を知らない?」
呆れた顔。しかも、またはあ?って言ってる。それ、威圧感あるしやな感じだ。
「…同じクラスかもしれないけど、分かんないし、」
ちょっと言い訳っぽくなった。もう帰りたい。
「始業式の日に、各自自己紹介したろーが、男少ねえのに何で覚えられねえんだよ。至と同じ脳みそか。ったく。俺は二條誉、あいつは一ノ宮至。」
にじょうほまれ、いちのみやいたる。さっぱり記憶にない名前。この商業高校は女子生徒が多くて、クラスの男子の数は少ない。女子クラスもある。でも、一度だけ聞いた名前を覚えるとか無理だし。
「お前は三鷹文だろ。」
フルネームを知られてる…。みたかあや、確かに俺の名前。
「俺の名前を覚えてなかった罰として花を生けろ。」
罰って、…何様。背中を押され、灰色の三日月型の器を持たされた。勝手に剣山まで乗せてくる。ほら水、と水道の蛇口の前まで連れて行かれて渋々水を入れた。
「ここまで付き合ってくれてるし、今日の花代は俺が出す。だから、やってみろよ。見てるだけとかつまんねえだろが、」
落ち着いた声。なんだ、意外とまともな奴なのか。人生初の壁ドンまでされて、正直おかしな奴に捕まったと思ってたけど。
「ほーちゃん、みたか君。早く早く、先輩待ってるよ。」
実験をする為のテーブルの前でいちのみやが呼ぶ。こいつは、つくづく変な奴だ。もうすごい花を見に来たのを忘れて、花道をする準備を整え終わってる。
「ほら、行くぞ。」
俺は先を行く背中を前髪の隙間から見た。身長高いな、いや、俺が低いのか。
いちのみやの隣に花器を置くと、バケツに入れられた花の包みを取って、にじょうがこっちに来た。
「ほらよ。」
受け取って新聞紙を解く。中には小菊と水仙、小さな葉のついた長い枝、それから大きな葉っぱ。花の名前とかよく分かんないけど、菊と水仙は分かった。
「あれ、君はやらないの?」
「ああ、俺は見学です。」
澄まして答えるにじょう。向かい側に女子生徒三人、指導してくれる先輩が一人づついちのみやと俺の隣に立つ。俺たちの背後に、にじょうの視線。やりづらい。
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