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「おはよう、ぶんちゃん。今日は何読んでんの。」
学校の鞄を抱えて笑顔で話しかけてこられた。出来たら無視したい…けど。
「おはよう。文。」
来た。毎回、二人一緒なんだよな。あやって呼ばれて憂鬱になる。ここで返事を返さないとうるさいのも、この二週間で身にしみてる。
「おはよう。一ノ宮、二條。」
仕方なく文庫本を閉じてタイトルを見せる。二人とも表紙を眺めて、別々の反応をした。
「ええと、かじい…きじろう?」
首をかしげる一ノ宮。
「違う、かじいもとじろう。なんだ、いつも文学小説だな。好きなのか。」
訂正して、作品の内容を理解してる顔の二條。多くの人が国語の授業とかで読んだ事のある作家だろう。で、俺が読んでるのは梶井基次郎の作品集だ。
「うん、まあ。」
「どれが好きなわけ、」
「栗鼠は籠にはいっている。」
愛撫も好きだけど、教室で言うには恥ずかしいタイトル。
「へえ、檸檬とか櫻の樹の下にはとかじゃないんだ。」
「それも好きだけど…なんか、栗鼠の動きの描写に惹かれて。読んだ時にびっくりしたから。」
「ねえ、何の話。レモンとかリス?それって何、誰かの名前?」
一ノ宮は、檸檬とか読んだ事がないのか、それともタイトルを聞いても内容が浮かばないのか。まあ、興味もないだろうな。男同士のあれな小説を愛読してるだろうし、昔の小説家とかそんなもんか。
「リスは動物の栗鼠。」
二條は、一ノ宮に梶井基次郎の説明を怒らずにしてやっている。あーあれか、カップルだからか。俺に対する態度よりも優しい。はあ?とか言わないし。まあいいや。
「へえ、有名な人なんだ。俺は本とか全然読まないし分かんない。ぶんちゃんはすごいな。」
あれ、BL小説も本だろ。教室では突っ込まないけど。
「別にすごくはない。好きなだけ。」
それに、本を読んでいる人間には話しかけづらいだろ。俺は、対人関係を友好に運べない。だから、本を読んでいるってのもある。まあ、好きなのが一番の理由だけど。
会話の終わりって意味で、また文庫本を開いた。
「ねえ、ねえ。今までどのくらいの本を読んでいるの?」
一ノ宮、空気読め。何で勝手に俺の前の席に座るんだよ。しかも椅子の向きまで変えて向かい合わせだし。
「…さあ。」
面倒で一言で終わらせる。
「文豪の作品が多いのか?芥川龍之介とか夏目漱石とかも読んでたろ。」
なんで、二條まで隣の席の椅子を持って来て座るんだよ。この前と横からの狭い席を囲む圧迫感。無理。長い前髪の下で目を伏せる。俺の中での距離感だと限界に近い。この二つの席の生徒の登校が早い事を望む。
「そういう訳でもない。最近は、お笑い芸人のも読んだ。」
あの、芥川賞を受賞したやつ。別に、昔の小説家の作品だけを賞賛してる訳でもない。
「ああ、あれな。俺も読書感想文で書いた。」
「もう、二人だけで分かり合うのは止めてよ。俺も会話に入れてって、」
あ、そうだよな。彼氏が他の奴と親しげなのは嫌だよな。俺は口をつぐんだ。文庫本に目を落とす。
別に男同士の交際にあれこれ言うつもりもないし、気持ち悪いとかもない。当人同士が幸せならいいんだろ。それが交際ってやつだと思う。経験ないけど。
「ぶんちゃん、今日の放課後は部活だよ。さっき先輩からメールが来てた。」
俺は携帯持ってない。連絡取りたい親しい奴もいないし、別に困らないから。部活の連絡も一ノ宮か二條が教えてくれる…けどさ。
「バイトあるから、」
これは本当。嘘じゃない。
「えー?またかぁ。体験入部から一度も参加できてないじゃん。今日は一緒にやりたかったよぉ。」
脹れる頬。子供か。こんな感じなのが好きなのか二條。
「分かった。お前のバイトのシフトを教えろ。」
あ、嫌な予感。
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