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父親はきっと昼くらいに来るだろう。そう予想して、目覚ましもかけずに寝た昨晩。で、朝から固定電話の鳴る音に起こされた。
ベッドの近くの目覚まし時計を見る、朝の9時過ぎ。のそのそと布団から出る。
「もしもし…、」
ぼそぼそと、寝起きの通らない声で受話器に向かって話す。ここに電話してくるのは父親だろう、もしかしたら来れなくなった連絡かと頭をよぎった。
「ああ、三鷹君!今日はバイトのシフトを代わってただろ、なんで出て来てないのかな、体調でも悪いのか?」
早口で強めの口調、店長だ。時々来る急な電話の時は突然の出勤依頼の時だけだ。だけど今は、
「…あの、シフトは代わってないです。」
「ええ?昨日変更してあるよ、今日の午前から出勤で日曜日が休みだろ。」
「あ、」
彼女の不満が詰まった尖った口を思い出す。嫌な予感は的中した。
「何、忘れてた訳?で、体調が問題ないなら早く来てくれないかな!寝坊とか勘弁してくれよ、もう開店してるんだから!」
一方的にまくし立てる声。ガチャン!って派手に切られた。
「はぁ…、」
溜め息ついたって、なんにも変わらない。俺は今から急いで着替えてバイトへ行くって事が決められてしまってる。
顔を洗い、スウェットを脱ぐ、ジーパンを履く。機械的に体を動かした。
そもそも彼女が悪いとか、話す隙を与えない店長だって悪いとか…言いたくても言い出せないし、そんなのとっくに諦めてる。
「はあ?って強めに言ってやったらすっきりすんのかな。出来ないけど。」
二條ならあの時、即座にきっぱり彼女に断っただろうし、シフトを勝手に変更するなんて身勝手な振る舞いを許さない。店長だって、一方的な決めつけをしなかっただろう。みんな、人を見て行動するんだ。
「別にいいや。」
俺は二人に軽んじられてる。だからって傷付いたりしない。だって、俺も二人を好きだと思った事はないんだ。俺自身も人柄を見てる。他人は自分を映す鏡なのかもしれない。
食事も水分も抜きでバイトをした。午後一時に解放されて、陽気な日差しを浴びながらバス停へ向かって足早に歩く。この店は学校と自宅のアパートの途中にあるからそんなに遠くない。
こんなに気の進まないバイトの時間を過ごしたのは初めてだった。でも唯一良かったって思うのは、この時間帯に帰れば父親の居る確率は高いって事だ。
少しの時間でもいいから会いたい。
人間関係でもがいてる、このどん底の気持ちを話したりはしないけど、…いや出来ないけど、あの背の高い広い背中の側に居たかった。
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