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アパートの玄関に鍵を入れる前に、念じるようにドアノブを回してみた。あ、開いてる。玄関には大きなサイズの靴がある。良かった。
「ただいま。」
久し振りにただいまって言った。一人だと返事が来ないって分かってるから、挨拶なんてまるでしない。
「おかえり。バイトだったのか、」
「うん。」
靴を脱ぎながら返事をして狭い室内に入る。父親はテレビを見ながら、花を飾ってた二人用の狭い食卓でチャーハンを食べている。空いた席にはラップのかかった皿。俺の分がある事に嬉しさを感じた。
「チャーハン食うか?」
「うん。」
父親の作るチャーハンは、豚肉とピンクのかまぼこと卵とネギが入ってる。作るかもしれないって思って、材料は揃えておいた。
台所で手を洗って、冷蔵庫から水を取り出してコップへ注ぐ。それを持って、向かい側に腰掛けた。ラップを外して用意されてたスプーンを手に取る。
「いただきます。」
これも久し振りに言った。かすかに頷く頭に促され一口入れると、朝から何も食べてなかったからか、チャーハンの味がしっかりと感じられる。
「美味しい。」
「そうか、」
微かに笑う口元が、チャーハンをすくったスプーンをばくりと咥えた。男らしいなって思う。大きな節のある手も、肩幅も、身長も、足のサイズも全てが大きい。それに、俺の父親だって言ったらきっと誰しも驚くと思う。いや、父親を紹介する相手なんていないけどさ。
ほんと似てない。それに、なにより若い。だって今年で三十三歳だ。俺は彼が十七歳の時の子供で、亡くなった母親と入籍したのは法律で結婚が許される時まで待った後の大学一年の時。母親とは幼馴染で同級生、早過ぎるできちゃった婚だった。
「いつまで、こっちに居れるの?」
今の勤務地はここから遠い、帰省ラッシュに巻き込まれないように早目に帰るだろう。
「そうだな、明日か明後日か。」
「そう。」
「バイトは明日もあるのか?」
「ううん、昨日と今日で連休中はおしまい。」
結局、最終日の日曜日は空いた。どうせ予定なんてない、のんびり寝て過ごしてもいい。
「そうか。」
スプーンを持った手を顎にあて、なにかを考えてる顔。
「なに?」
「いや、もう高校生だろ。スマホいるんじゃないか。」
「別にいいよ、困ってないし。」
「せめて、俺との連絡は直ぐとれた方がいいだろ。ただでさえ離れてるんだし。バイトするようになってから、なかなか話せてなかったろう。」
「そうだけど…でも、」
「大丈夫だ、料金は全部俺が払う。バイト代は自分の為に全部使え。」
そんな事を心配した訳じゃない。バイト代を、スマホの利用料として使いたくないとか思ってない。
たださ、スマホを買ってもらったとして、父親がそんなに頻繁に電話をかけてくるとは思えない。使用しない物にお金を払うなんて、おかしな事だと思うだけだ。
「家の電話があるし、要らない。」
「ああ、そっちは解約する。それこそ固定電話なんて、友達だって連絡しづらいだろ。」
そんな友達なんていないけど。でも、俺は友達がいるふりをずっと続けてきた。転校に次ぐ転校。短い時は三ヶ月で移動した。この環境の中で親しい者を作るなんて俺には無理だ。
俺に友達がいない事で、万が一にも父親が気をつかい、祖母と暮らした時のように誰かに預けられて置いていかれたら…とても嫌だった。いや、ずっと恐れていた。
「そうだね。」
結局、俺は頷くしかないんだ。
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