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「ぶんちゃん、終わったよー。」
肩を揺すられて、ハッとして目を開いた。俺は寝てたみたいだ。何をどうしたんだっけ…あ、そうだ一ノ宮の家で髪を…鏡を慌てて見る。
「……。」
絶句した。あんまり短くはしたくないですって言ったつもりが、伝えてなかった?いや、伝わってなかった?
「長さは大丈夫ですか?」
例の女性が、合わせ鏡にして後ろ頭を映し、心配顔で確認してくる。
あんなに緊張しながらも丁寧に頑張って切ってくれていた…それを思うと文句とか無理。想像よりも短いですって言えない。
「はい。大丈夫…です。」
後ろ髪とか横髪には別に不満はない。たぶん、こんなものじゃないかなって思う。でも、前髪!前髪がー。
ホッとした女性がケープを外して、片付けのために俺の側を離れる。こそこそと、見つからないように前髪を手のひらで撫でつけてみた。…うん、完璧に視界は良好。全然、目が隠れない。
「ほら、文。二階に行くぞ。」
内心焦っていたら、いきなり近寄った二條が俺の頭に軽く触れる。わざわざセットしてくれたらしい、ふんわりした髪を少し揺らして離れた。
「ほらほら、行こう。用意してるから先にお風呂に入りなよ、切った髪がチクチクするだろ。」
一ノ宮がスタッフオンリーの扉を開けて手招く。
「あ、うん、」
心残りはあるけど、赤い椅子から腰を上げる。店内には、あの女性と一ノ宮、二條、それから一ノ宮の母親しか残ってない。俺が居座って迷惑をかける訳にはいかなかった。
二人に続いてスタッフオンリーの部屋を進むと、奥に外へ出る扉がある。どうやら、店舗と自宅は直接のつながりはないみたいで、外へ出たら近くの階段を上り、二階に設置された玄関から改めて自宅へお邪魔する事になった。
「いらっしゃい!中へどうぞー、」
一ノ宮が玄関を開けて笑顔で言う。
「お邪魔します…、」
なんか、緊張する。一ノ宮は自宅だから当然だけど、二條も慣れた様子でさっさとスニーカーを脱ぐ。俺もその隣で慌ててスニーカーを脱いだ。
「お風呂はこっち。タオルや着替えとかも全部置いてるから使って。俺の部屋は三階の、この階段を上がって右側の扉のほうだから。」
廊下で指差しで説明される。二人は一ノ宮の部屋で待つらしいから、風呂が終わったら部屋へ向かう約束をした。
「あ、あのさ…。」
階段へ行こうとするのを留める、どうしても確認しておきたい。
「ん?何?」
「変…じゃないかな、あの…前髪がこんなに短いと、」
「はあ?むしろ今までのが謎だって。お前の場合、小顔だし目も大きいから前髪はこの方が似合う。」
何を言ってんだって顔の二條。
「そうだよ!今のが絶対いいから!ぶんちゃんはかわいいんだから、顔は出すべきだよ。」
珍しく真剣な表情の一ノ宮。
「えっと、…本当に褒めてもらってるのか?」
戸惑う。これは本音か?
「勿論だろーが。ここで嘘を吐くほど、俺は性格悪くないつもりだ。」
「実は、最終確認の時に前髪をバッサリやったのはうちの母親なんだ。だから、文句があったら夕飯の時に言っていいよ。」
「え…そうなんだ。」
「なるべく長めでって言ってたから、彼女は遠慮してあんまり切らなかったんだ。でも似合わないからって理由でうちの母親がバッサリ!」
「そ、寝てるのをいい事にな。止める間もなかった。」
なんだ、そっか。彼女はちゃんと分かってくれてたんだな。しかも、二條は止めようとしてくれたとか…ちょっと嬉しい。
「ならいいや。二人が見て、別に変じゃないならいい。」
なんだかすっきりした。長い前髪がないと、二人の姿がよく見えるんだ。
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