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朝食を食べて、一ノ宮がレンタルしていたお笑い番組のDVDを見た。三人で観たからか、同じネタなのにテレビで見た時より面白くって腹が痛くなる程笑い、それを返却しに行くついでにぶらぶらしようという話になった。
笑い過ぎて脳みそが壊れていたのか、すっかり忘れてた。今頃思い出して、ここには来たくなかった…とか正直思ってる。
レジに立つ彼女を確認し、思わず隠れる様に背を向けた。いずれは避けては通れない。バイトのシフトが一緒になる日は近いんだし。
「ぶんちゃんはどんな漫画が好き?」
一ノ宮は返却する為のDVDを持ったまま、新刊の少年漫画の前で足を止めて一冊を手に取った。
「漫画って、あんまり読んだ事ないんだ。あ、でも知ってるのもあるけど。これとか、」
手前の本棚に置かれた、たくさんの巻数が出てる人気のある漫画を指差す。
「ああ、これ面白いよな。」
二條が頷く。祖母との二人暮らしの時は、漫画なんて読んだ事なかった。学校の図書室で借りる本が娯楽の全てで、テレビもあんまり見せては貰えず、とにかく躾に厳しい人だった。
父親との二人暮らしになってからは、テレビも漫画も禁止されたりはしなかったけど、身に付いた習慣は一人きりだと変える気にもなれず、今だに小説を読むのが一番好きっていう。
「これ、うちに揃ってるよ。後で貸そうか?」
「うーん…何巻まで読んだか覚えてないんだ、」
いつだったか、誰かが貸してくれた漫画。今ではその子の顔も名前も思い出せない。小学生の時だったと思うけど、とにかくうろ覚え。
「最初から貸すよー、俺もたまに読み返してんだ。何度読んでも面白いし、」
「じゃあ、今度貸して。」
「うん。」
面白い漫画だった記憶はある。今も変わらず人気があるし、きっと改めて読んでも面白いんだろう。何より、二人がそう言うんだから読んでみたくなった。
「文、この漫画も面白いからお勧め。」
二條が手に取った漫画も人気のあるものだけど、それは全く読んだ事ない。内容すらよく知らない。
「そうなんだ…、」
「これは、ほーちゃんのうちにあるよ。俺も好き。」
「貸そうか?」
「うん。ありがとう。」
その漫画の裏表紙に書かれた内容をざっと読む。うん、なんか面白そう。
で、すっかり背後に立つ気配に気付かずに楽しくあれこれ話してた。
「ねえ、もしかして三鷹君…?」
戸惑った感じで話しかけられ、振り向く。
「あ、」
彼女はマスカラで固まった睫毛に縁取られた目を大きく開いてる。もう一度三鷹君?って聞くから頷く。いつの間にかレジを離れて、直ぐ側まで来ていたらしい。
「あのさ…、ちょっといい?」
返事をする前に腕を引かれて二人から離れる。ちょっと下を向き、ポケットをごそごそしてる。
「この前のシフトの事なんだけど、ごめんね。誰も代わってくれなくて、イラついて悪い事したなって思ってる。とにかく…これあげる!」
そう言って、棒付きの飴とかカラフルなクマの形のグミとかを手のひらいっぱいに渡された。…なんで仕事中のエプロンのポケットに、こんなに入れてるのかは謎…。
「えっと…、俺も結果的には交代して良かったと思うし別にいいよ。」
「本当?」
「うん。」
「ありがと!そっちの都合の悪い時は代わるから遠慮なく言ってよ。あ、あとさ、その髪型似合ってる。絶対こっちのがカッコいい。」
そう言って、彼女はスッキリした笑顔で仕事に戻った。
なんだ、俺は彼女を誤解してた。案外、悪い人じゃないのかも。別に髪型を褒められたからとかじゃなくて、きっと自分の感情に素直な人なんだろう。まあ、短慮だとは思うけど。
二人は本棚の陰からこっちを心配そうに見てる、もういいよって頷くと寄って来た。
「あっ!お菓子がいっぱい。」
「さっき貰った。好きなの取って、」
一ノ宮は棒付きの飴と、クマのグミをどれにしようか迷って黄色いのを取った。二條も手を伸ばす。
「お前の彼女…じゃないよな?」
もしかして紹介してほしいのかな。でも、そんな恋愛に関するスキルとか俺に求めないでくれ。
「違うよ。あ、でも彼氏いるみたい。」
「ふうん。やっぱりな、違うとは思った。」
「嫌味か、」
モテないですけど、何か?つか、二條はいかにもモテそう。何気無く着ているボーダーのニットとジーンズ姿もカッコいい。肩幅が適度にあるから様になってる。一ノ宮も、俺よりはよっぽどカッコいい。
うーん、水泳か…。俺は泳ぎは苦手。だから肩幅もないのかも。
「嫌味?違うけど。ただ、文とは似合わないと思っただけだ。」
似合わない?まあ、俺もそう思う。彼女に俺は釣り合わないだろう。元々レンタルビデオの方のアルバイト希望で、そこからあぶれて本屋の担当になってしまったという人だから、本には詳しくない。おしゃれが好きな、リア充な女子って印象。
「ぶんちゃんには、もっと清楚な感じの子が合うよ。あとは、頼れる感じの人とか。」
「そう…かな、」
頼れる…ねえ。
二條は赤色のクマをポイっと口へ放り込んだ。
「何の味だこれ、…しかも想像よりだいぶ固い。」
「うん。歯応えあるねぇ。」
俺も黄緑のクマを口へ入れた。何だろ、何の味だろこれ。よく分かんないや。
三人で首を傾げながら、ようやくレンタルビデオの方へ移動した。
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