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6の5
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今日のプレゼントは、まさしく父親が俺を思い、選び、贈ったものだ。新しい服や靴は、新たな旅立ちには相応しい。だからこその贈り物だったのかも。
「本当の父親は、なんにも言って来ないんだ…。」
責任逃れして、友人へ子供を押し付けて…随分と勝手だ。俺の容姿がそんな人に似てることに申し訳ない気持ちが強くなる。この人は、俺を見るたびにどんな思いがしただろう。
「…言って来ないんじゃない。亡くなってるから、もう言えないんだ。」
「え、」
それは予想外だった。俺はずっと心のどこかで本当の父親を悪者にして、精神の安定を保ってきた。他に憎むべき者がいればこそ、自分がこの人の側にいる言い訳に出来ると信じていた。
「彼は、文の存在を知らずに亡くなった。だから名乗り出る事もなく、彼の肉親の誰も子供がいる事実を知らない。俺も彼女も報せなかった。」
「それは…どうして、」
テーブルへ着いた肘、手の甲へ額を埋めてしまう姿はいつもよりも小さく見える。大きな手の形は同じなのに。
「あいつが事故で亡くなったのは十六歳の時だ。その後相談されて、俺が彼女の妊娠を知ったのも十六歳の時で、人生の大きな決断をする為には自分の子供だと信じなければ無理だった。」
「今の俺と同じ歳、」
想像してみる。俺には彼女もいないし、そんな状況におちいる要素もないけど…どうだろう。別れた彼女に、しかも亡くなった友人と付き合ってた人で…はっきり判りもしないのに父親としての責任を負うと言えるだろうか。
「父親が誰か、互いに真実をはっきりさせる事が怖かったのかもしれない。一人きりで産み育てるには彼女は若すぎる、でも命を奪うことなど考えられない人なんだ。」
母親のことを今でも好きなのかな。俺には、ちっとも美しい話としては響かない。だって彼女はずるい。一人で育てられないから、父親じゃない男に育てさせるなんて、この人のことを何だと思ってるんだ。まるでカッコウじゃないか。血の繋がりなんてない子供を育てさせこの人を拘束し、その人生の十六年間を無駄にさせるなんて。
いや、その厄介者の俺が憤るなんて変な話だけど。でも、やっぱり顔も憶えてない母親の事をかばう気にはなれない。
「文、なんで怒ってるんだ。」
「え?」
「そんな顔してる。俺に対して怒ってる事なら遠慮なく言ってくれ。ちゃんと聞くから。」
「そんなこと…ないよ。別にあなたに対して怒る事なんて何にもないから。」
「それ、そのあなたっての気になるから止めてくれないか。」
「じゃあ、なんて呼んだらいいの。」
小さな頃のように、お父さんなんて呼ぶのは無理だ。もう色々知り過ぎてるし、父親じゃないと確信してからは呼んだことないんだし。
「いや、親父とかでいいだろ。」
即座に首を振る。図々しいから、もう、消えたいくらいの気持ちなんだ。
「じゃあ、名前で呼ぶか?」
「名前…、」
「芳とかで、…うん。そうしよう。」
本当に?躊躇ってしまう。芳さん、そう呼んでもいいのかな、俺には判断出来ないよ。でも、案外柔らかな表情で自分の提案に頷いてる。
「それと一番の肝心な事だけど、決断は文がしていいんだ。このままでもいいし、彼女の元へ行きないのならそれでもいいんだ。もし、彼女と会った上で決めたいのならそれも出来る。」
「少し…考えさせて、なるべく早く決断をするから。」
芳さんのためにも。
「いや、ゆっくりでいい。ゆっくり、たくさん時間をかけていいんだ。」
それは本音?それとも立前?もうとっくに額を手の甲から離して、ずっと俺の目を真っ直ぐ見てる。その瞳の奥にある、あなたの心の中を知りたい。
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