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声の限り1
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「招ー平ー!」
暑さのこもるアパートに母さんの叫び声。
これ、隣近所にも聞こえてるんじゃないかな。
「なに」
「大事な話よー!そこ座りなさい」
大事な話?
嫌な予感がする。
そしてそういう予感ってのは、だいたい当たるようにできてる。
「…なに?」
俺は畳にぺたんと座ってもう一度尋ねた。
母さんはすぅっと息を吸い、深呼吸をしてから、申し訳無さそうに口を開いた。
「宮城へ転勤になったわ」
この言葉の意味を、俺はしばらく理解出来なかった。
というかしたくなかった。
予感は見事的中したらしかった。
「てん、きん?」
「そう。お父さんの仕事の都合なの。わかってあげて」
えーっと。
いや、納得できるはずない。
だって音駒に入学してまだ半年も経ってないんだ。
「え、嫌だ」
純粋にそう思った。
でも、それが通用しないのが子供の悲しい現実。
「新学期から向こうの学校だから、準備しておきなさい」
淡々と告げた母さんが。この日ほど母さんを、殴りたいほど恨んだことはないだろう。
グッと拳を握りしめて、必死にその衝動を押さえた自分を誉めてやりたい。
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