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声の限り3
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「招平、入ってもいい?」
母さんの声だ。
いいよ、と俺が答えると、ガチャっと音がして母さんが部屋に入ってきた。
「何の用?」
俺は机に向かったまま母さんに話しかけた。
表情は見えないけど、聞こえた声は悲しげだった。
「…こんな時期に転校なんて、ごめんね。新しく友達も出来たでしょうに」
今さら謝ったって何になるんだ。
言うなら転勤の話を出した昨日でしょ。
というか、謝られたって転勤の事実は変わらないんだし、別に謝罪なんて必要としてない。
「…別に仕方ないよ。でも音駒でバレーしたかったよ、ずっと」
俺の声が思いの外低くて驚いた。
誰のせいでもないことくらい、よくわかってる。
わかってるけど、この孤独感をどこかにぶちまけないと、おかしくなりそうだった。
何でもいいからその捌け口が欲しかった。
「…宮城でも、バレーはできるわよ。招平が行く学校は強豪らしいの」
母さんは俺を励ましたくて言ったんだと思う。
でもわからないだろう。
俺がどれだけ音駒の生活に依存してたか。
どんな言葉も俺にとっては、ただの戯れ言でしかない。
「…聞こえなかった?音駒でバレーしたかったって言ったんだけど」
俺が吐いたその言葉は、ただ母さんを傷つけただけだった。
「…そう、よね」
母さんはそれ以外何も言わなかった。
もう明日には東京を離れないといけない。
ここで一人暮らしをするという考えもあったけど、さすがにそれは親が許さなかった。
それに、俺は一人で生きていけるほどまだ大人じゃない。
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