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声の限り5
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キキッ。
学校の敷地に入った瞬間、急に車が止まった。
…なんだ一体。
「すいません」
父さんが窓を開けて声をかける。
近くを歩いていた男子生徒が足を止めた。
頬と額にバンソーコーを貼っている。
赤茶のクセっ毛が特徴的な人だった。
「はい?」
「明日から息子が転入するんだ。よろしくお願いします」
「あ…そうなんですか」
その男子生徒は曖昧な笑顔を作って、俺を見る。
「父さん、なに言い出すんだよ…」
俺は、父さんのシャツをグイッと引いた。
わざわざ知らない人に挨拶する父さんの気が知れなかった。恥ずかしさと苛立ちで俺の顔は真っ赤になっていたに違いない。
その様子を見ていた男子生徒は困ったように「君、何年生?」と笑いかけてくれた。
「…1年です」
俺が答えると、へぇとちいさく目を見開き、「バレー部入るんだ?よろしくね」とまた笑いかけてきた。
心が落ち着くような優しい笑み。
「なんで…」
「それ。バレーの靴でしょ」
彼は車の中を指差す。
指の先には俺の隣の座席に置いてあったバレーシューズとサポーター。
よろしくってことは、この人もバレー部なんだ。
半袖から伸びた、ほどよく筋肉のついた腕には青アザがいくつもある。
背も高い訳じゃないし、リベロなのかな。
リベロならブロックフォローでアザが出来ても頷ける。
「あの、名前…」
俺の問に、彼は快く答えてくれた。
「茂庭要。伊達工バレー部の2年だ」
「えっと、茂庭さん。ここって強豪なんですよね」
俺の何気ない一言は、茂庭さんから笑顔を奪った。
「あー、まぁ一応、ね」
含みのある言い方と虚ろな目に、俺が彼の気を悪くさせたことに気づいた。
「な、なんかすいません」
「いや、ごめん。君は悪くないよ、気にしないで。じゃ、俺そろそろ行くね」
茂庭さんは父さんに向かって会釈した。
父さんは愛想笑いを返す。
茂庭さんは俺の方をちらっと向いて、
「何か困ったら力になるから相談して。また会えるといいね、福永くん」
と手を振って学校内に行ってしまう。
「えっ」
俺は、彼がシューズ袋を見て名前を知ったんだと察した。
「っはい!ありがとうございます!」
俺の声は、多分彼には届かなかった。
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