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声の限り16
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「今の俺らの代は、上から何も期待されてないんだ。先輩にも、顧問にも。身長がある訳でもなく、特別動ける訳でもないしね。鉄壁を名乗るには脆すぎた。んで、期待されないだけならよかったんだけど、嫌われちゃったんだ。特に先輩から。それが去年の春高あたり。まぁ先輩は強かったし、俺はまだレギュラーじゃなかった。その春高はいいとこまでいったんだ。それで今年。二口たち1年が入ってきて、そろそろ俺らの代の主将を決めようってなった。俺は笹やんがいいと思ったんだけど、その笹やんが俺を指名して、結局そうなった。そこまではよかったんだ。でも…」
そこで一旦、茂庭さんは息を吸った。
そしてゆっくり吐く。
その表情は辛そうだった。
「インハイまで3ヵ月になった頃、俺らに嫌がらせがくるようになった。いわゆるいじめだ。先輩の権力ってのはすごいよね。鶴の一声よろしく、みんな従うんだから。とはいえ、二口や青根、小原は俺らを心配してくれてたけどね。最初は陰口とかだったのに、インハイが近づくにつれてエスカレートした。ロッカーがズタズタにされてたり、よくわからないうちに殴られたり。笹やんと鎌ちはそれ以上されなかったけど、俺はよほど嫌われてたらしくて、一回肋骨折られたよ」
あははと笑う茂庭さん。
俺は聞いていて怖くなった。
そんなことが実際に?
それより茂庭さん、作り笑顔が上手くなったんじゃない。
「実は、2年主体になるまで俺は部活出られなくてさ。肋骨の関係もあるけど、先輩が顧問にタバコだとかのガセネタ伝えたらしくて、インハイ終わるまで部禁になった。まぁそのお陰で、福永と仲良くなれたんだけどね」
いや、お陰でとか言ってられる状態じゃないでしょ。
「伊達工はさ、3年はインハイで引退なんだ。でも今年はしばらく先輩が来てたから俺はその間も部禁だったんだ。まぁ、もう先輩は来ないよ。そのせいで人数少ないけどねー」
茂庭さんはまた笑った。
初めて会った時から気付いていた青アザ。
最初はバレーの練習によるものかとも思ったが、まさかいじめとは。
転入初日に二口が言ってた意味が、今やっとわかった。
「とはいえ今は平和だよ。だから何も心配しないでいい。肋骨もなおったし。俺は同情してほしくてこんな話したんじゃないからね。さ、福永も練習に参加しな?」
俺は少し迷ってから、小さく頷いた。
そしてランニングの列の最後尾に着く。
「伊達工ーファイッ!」
掛け声が「音駒ー」じゃ無くなったことに違和感を感じないほど、さっきの話は衝撃だった。
あなたが心から笑顔になれるためなら何だってしよう。
俺の人生と引き換えてでもいい。
あなたの不幸を半分俺が引き受けて、代わりに俺の幸せを半分あげたら、あなたは心から笑っていてくれる?
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