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声の限り21
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「茂庭さん、ちょっといいスか」
二口と俺は部活が始まる前に茂庭さんを呼び止めた。
「ん?どうした?」
笑顔で振り向いた茂庭さんだったけど、二口の顔を見てその笑顔は消えた。
「二口、なんか怒ってる?」
「別に。ただ聞きたいことがあるんスよ。来てください」
有無を言わせない威圧感が、その時の二口にはあった。
試合中とは違う、もっと恐ろしい威圧。
茂庭さんもそれを感じ取ったらしく、大人しく二口のあとに続く。
とはいえ引け腰になっていた訳ではなく、ただ堂々と無言で二口についていった。
俺は内心ハラハラしていた。
緊張とか言うレベルではなかった。
部室から校舎の裏まで来たとき、茂庭さんが口を開いた。
「もうここら辺でいいんじゃない?人いないよ」
その声に、二口は足を止めた。
「…そうっスね」
二口の声は消え入りそうなくらい小さかった。
「で、何?」
茂庭さんはお母さんみたいな眼差しで俺たちを見る。
「気を悪くしたらすんません」
二口が切り出した。
「富江…とヤったんスか」
富江に敬称をつけるのが嫌なのはわかる。
いつもの茂庭さんなら「先輩だよ!?ちゃんとさん付けしなさい!」って言うだろう。
それでも敬称をつけなかったのは、二口なりの抵抗だったんだ。
俺は俯いた。
返答が怖かったから。
でも、聞いた二口の方が俺より怖かったはずだ。
「先輩から聞いたの?」
茂庭さんの静かな問いに、二口はゆっくり頷く。
あまりに淡々としていて、かえって緊迫感が増した。
実際俺は聞いてないから微妙な感じだったけど。
「…そう。聞いたんなら仕方ないな。うん、ヤったよ」
「ヤった、じゃなくて、ヤられた、ですよね」
二口は食い下がる。
確かにそこは重要かも知れない。
ヤったのか、ヤられたのか。
茂庭さんの合意があったの、なかったのか…。
でも、茂庭さんがそれに答えることはなかった。
「それだけ?じゃあ、俺行くし。2人も部活遅れんなよ」
そう言って駆け出した茂庭さんの背に、二口は声をかけた。
「茂庭さん!」
「ん?」
彼は立ち止まって、こちらを見た。
「…首筋のキスマーク、目立ちますよ」
二口は何を思ってそう言ったんだろう。
彼の顔には、もう憤怒の色はなかった。
「…ありがとう」
茂庭さんは微笑みながら一言だけ残して、校舎の角に消えた。
それは、今までで一番上手な笑顔だった。
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