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声の限り32
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「福な………」
「福永ァァァア!!!」
俺はほぼ新品の制服に身を包み、校門をくぐった。
その瞬間、どこからとなく叫びながら現れたのは茂庭さんと二口。
とはいえ茂庭さんの声は二口によってかき消されたが。
「来て…くれたんだね」
茂庭さんが安堵の表情で俺に駆け寄る。
「はい、伝えないといけないことがあって」
「もおおお寂しかったんだぞ!?お前がいない間俺毎晩枕濡らして……」
二口は俺に抱きついたまま離れない。
その二口の頭をポンポンと撫でる。
「……二口、俺、お前に会えてよかったよ。ずっと親友」
「な、なに言ってんだよ、改まって…最後みたいじゃんか……」
二口はふと俺の顔を見つめ直す。
「そう、お別れ」
「へっ……?」
二口が聞き返したその時。
「あれぇ?福永くんじゃん。どうしたの?またいじめられに来たのかな??」
富江の声がした。学校の方から歩いてくる。
俺はキッと奴を睨む。
「そんな怖い顔しないでよ。ま、今日からまた可愛がってあげるからさ」
ニヤニヤと嫌な目をしてる。
俺は奴を睨んだまま言った。
「残念だったね。おれ、今日で学校来るの最後だから」
「は?なに、逃げんの?」
クククと笑う富江。ああ、ムカつくし、今すぐ殴り倒してやりたい。
「まさか、転校だよ。でもまぁ………茂庭さんや二口を泣かせた対価くらい貰ってくことにする」
そう言い終わらない内に、俺は富江の顎に1発かましてやった。
「ふ、福永!?!」
慌てる茂庭さんの隣で二口は嬉々としている。
「福永ナーイス」
「いえーい」
二口と流れでハイタッチ。
地面に倒れた富江に、俺は言った。
「これから俺がいないからって自分の天下になると思わないことだね。あんたのお仲間はみんな退学になったし、あんたももうここにはいられないよ」
「ど、どういう意味だ……」
「そういう意味だ」
富江のボヤキに答えたのは俺じゃない。
富江の後ろにはヤンキーの様な組長の様な厳つい男。
確か、バレー部の顧問の、振分先生…。
「お前の悪事は全部把握済だ。喫煙、万引き、イジメ、性的暴行…これだけあれば退学決定だな。ついてこい、校長がお呼びだ」
富江は俺を心底恨めしげに睨んだまま、振分先生にトボトボついていく。
「福永が先生に…?」
二口が俺に尋ねる。
「そう。俺がいなくなる前に、危険なのは摘んでおこうと思って」
「そっか………って、そっかじゃないよ!!お前、転校すんの!?!」
二口ははっとして俺に詰め寄る。
「う、うん。東京で引き取り先が見つかったんだ」
その言葉に茂庭さんは笑顔で「よかったね」と言ってくれた。
「そっかぁ………そうなんだ……」
二口はまた俺を抱きしめた。
耳元で鼻を啜る音がする。
「せっかく仲良くなれたのに………グスッ…行くなよぉ………」
やめてよ、そんなこと言われたら、未練が余計に募っちゃうから。
「福永」
茂庭さんは俺の頬に手を添えて、ふにゃっと笑った。
「幸せになれよ」
その言葉は、俺の涙を容易く誘った。
「もにわさ…ん………うぁぁ………!」
もう、涙は止まることを知らない。
でも、我慢する必要はないんだ。
「ふたりとも……ありがとう………ありがとう……!!」
ああ、こうして声の限りに伝えられることを、幸せに思うよ。
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