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キーンコーン
滑り込みセーフ。
「はぁ…はぁ…」
今日と同じ理由で寝坊した2週間前ぶりにこんなダッシュした。
汗で服が張りついてきて気持ち悪い。
「おーふたりとも朝から元気だなー」
呑気な声が、チャイムと同時に、正確に言えば俺たちより3秒遅れて教室に入った担任の方から聞こえた。
この先生は、なんていうか、生徒に好かれまくる。
主には女子生徒だが、無気力そうに見えて本気になれば学年1運動ができる男子を打ち負かすほどの闘志を内に秘めているので、競争心がくすぐられるのか男子生徒とも仲が良い。
この前なんて、
「俺は峯岸をいつか絶対倒す!」
なんて豪語してる男子生徒を廊下で見かけた。
(頑張ってください)
と念を送っておいた、形だけ。
僕は優等生を装ってるけど、見た感じも優等生のように見えるけどそうじゃなくて、実際優等生なのは湊のほうだ。
湊は活発で、いつもきちんと整えられてる髪は少しチャラくも見えるかもだけど、でもやっぱり根っからのがんばり屋だ。
成績だって、もちろん湊の方がいい。
僕はいつも湊に教えてもらっている。
ただひとつ僕から湊に教えられることといえば、読書好きな僕が得意な国語の知識問題くらいだ。
いつも教えられる僕が湊に教えられるってことで、それはちょっと誇らしい。
ぎりぎりセーフだった僕達が席についたとたん、出席確認を含む朝のHRが始まった。
「浅田~上村~」
これまた眠そうな声だ。
「ありゃー田村のせいで朝の煙草が吸えてねんだな」
後ろから声がかけられた。
振り向くと、冨田が僕の方に乗り出すように話し始めた。
「田村、昨日またボコったらしいぜ」
何が嬉しいんだか、にこにこしながら自分の知り得た情報を語っている。
冨田はどこのクラスにも絶対ひとりはいるであろう、情報通だ。
自分のもつ情報で人を操るのに長けている。
僕はいつも通り、冨田への定型文のなかから選び、返事をした。
「へ~」
「そんでさ峯岸、またはやくに呼び出されたんだって。いつもの煙草吸う時間に。ほら、あいつって煙草吸わねぇとどっか気合い入らねぇ感じだろ?」
「そうだね」
あきらかに会話にかけているエネルギーの差が見られるこのどこの主婦だって感じの井戸端会議は、会話のネタにされている峯岸本人に止められた。
「おいそこー。無駄口たたいてっと欠席にすんぞー」
僕は慌てて前を向いた。
前を向くついでに、ちらっと湊を見た。
湊もこっちを向いていた。
目があった気まずさからすぐにそらしそうになったけど、湊が口パクで何か言っている。
…?
お ま え は ば か か
「おまえは馬鹿か…?」
口のなかで湊の言葉を繰り返し、ただの音にやっと意味が含まれた。
恥ずかしくなった僕は、唇をかんですぐにうつ向いた。
遠くで湊の軽い含み笑いがした。
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