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憧憬。 *坂口side*
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大宮が教室を飛び出して走っていくのを呆然と見送ってからもしばらく立ち尽くしていた俺だったが、ひときわ大きく聞こえた時計の秒針が進む音でようやく我に返った。
「……あ~あ~、ボトルも放り出して…中身こぼれちゃってるじゃん」
大宮の放り投げた衝撃によって床にまき散らされた液体を、近くに干してあった雑巾で拭き取りながらも俺はいまだ、ショックから立ち直れずにいた。
杉野……、どうして一人でなんて………いや、俺は本当は気付いていたんじゃないのか?杉野はそういうやつだ…過ごした時間が少なくても分かる。路地の場所を聞いてきた時点で違和感は感じていた。あの時…本当は何を考えているんだと、問い詰めていれば……こんなことには…。
「ッ、……」
…いや、きっと大丈夫だ。杉野と別れてからそう時間は経っていない。それに、大宮ならどんな状況でも杉野を助け出すだろう。
「………それにしても、杉野。やっぱりすごいな、お前の自慢の幼馴染み様は。」
頭で考えてばかりで、いざという時は動けない俺とは全く真逆だ。
考える前にまず体が動くってああいうことを言うんだろうな…いい意味でも、悪い意味でも。
お前は大宮のことが羨ましいなんて言ってたけど、俺からしてみれば二人共が羨ましいよ。
一度守ると決めたもののためには自分の身も顧みずにひた走る大宮。
嫌なことがあっても…傷つけられても。それでも前を向いて必死に進もうとしていて。
過去から、自分から逃げようとしない真っ直ぐなお前の姿勢―――。
杉野……だから、俺に相談してきたんだろ?”強くなりたい――――素直な自分になりたい”って。
俺は―――逃げてきたから。周りのことからも…自分からも。
”あいつ、ホモなんだろ?”
”え、そうなの。うわ……気持ち悪…。”
”ほら見て、坂口君がいる”
”ほんとだー。よくいれるよね、学校中あの噂で持ちきりなのに”
「…………」
すっかりきれいになった床をしばらくじっと見つめて立ち上がる。
水分を吸って重くなった雑巾を洗いに行こうとしたところでそういえば、と思い出す。
「大宮のやつ、飛び出していったのはいいけど部活中だったんじゃないのか?…………あー、……仕方ないか……」
はぁ、とため息をついて部長さん、怖い人じゃないといいなぁ~…なんて冗談めかしたことを考えながら、俺は教室を後にした。
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