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にわか雨。
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「……………へ、……?」
状況が分からず慌てて起き上がった俺だったが、答えは探すまでもなく目の前にあった。
「光、汰……」
その姿を目にした瞬間、無意識に口をついて出た名前。
俺にとってはもはや息をすることと同じ程に、体にすっかり染み付いた言葉。
俺のヒーローの────────名前。
発したかすかな音が届いたのか届いていないのか、光汰は俺を一瞥しはだけた胸元に気付くと一瞬目を見張ったがその瞳はすぐに俺から離れ、残った二人を鋭く睨みつけた。
「その顔……なんか見覚えあるとは思ったが、この間の練習試合で審判に散々難癖つけてたやつらか」
「はぁ!?難癖とか言ってんじゃねぇよ!あ、あんなプレーがバスケ始めたばっかのやつに出来るかよ!!何かインチキしてるに決まってんだろッ!?!」
「ふぅん………。つまり嫉妬か。………………醜いな」
「っ、………」
「…だ、黙れえぇぇぇぇッ!!!」
光汰の言葉に俺が息をつめるのと同時に、挑発に逆上した一人が掴みかかろうとする。
……が、あっという間にねじ伏せられてしまう。
逃げようとする最後の一人にも重い蹴りを入れて気絶させた光汰は、立ったままぼんやりとしていたが…何を思ったのか俯き、そのまま動かなくなってしまった。
「え、と………光汰…」
ピクリとも動かないその様子に若干の冷や汗が背中を流れるのを感じながらも、俺は乱れたままだったシャツを引き寄せてとにかく礼を言わねば、と恐る恐るその背に手を伸ばす。
「あの……こ、こぉ…た……、…!?」
伸ばしかけた手を強引に掴まれて引き寄せられたかと思うと、次の瞬間にはその腕に強く抱きしめられていた。
「っ…春ちゃん……春ちゃん…、春ちゃん……春ちゃんっ………!!」
「な、ぇ……ぁ………」
耳元で連呼される自分の名前と段々強くなる光汰の腕の力に気を取られ、頭が回らなくなってくる。
「…!っい、たぃ…!こ、たっ……、…痛い、から…っ、…は、離して…!!」
骨が折れるかと思うほどの痛みに新たな涙が滲んできてそう叫んだ時、はっとしたように我に返った光汰が俺の腕を掴んで自分から引き離す。
呆然と俺の顔を見つめる光汰と混乱したままの俺との間に奇妙な沈黙とにわか雨が降り出してくる。
雨が涙をすっかり洗い去った頃、沈黙に耐え切れなくなった俺が何か話しかけようと口を開くが、顔を伏せた光汰のかすかな呟きがそんな俺の動作を止めた。
「………………………な…で……」
すとん、と膝から崩れ落ちた光汰。
脳が危険信号を鳴らしている。
聞き間違え?
そんなはずない………でも、
…だめだ、頭が……何も、考えられない。
「……、………っ、……い、ま…なんて………?」
「……春ちゃん……もう、俺に……近付かないで…………」
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