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虚無感。
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光汰が立ち去ってから、一体どれくらいの時間が経ったのだろう。
ぜんまいの壊れてしまった人形のように虚空を見つめて茫然としていた俺は、まだかすかに残る腕の感覚をぼんやりと認識しながら静かに俯いた。
「もう…俺に……近付か、ないで…………かぁ……」
頭の奥が痺れてしまったように思考がまとまらない。
ただ”光汰に拒絶された”、その事実だけが今の俺の頭を支配していた。
大会前だって言ってたのに、こんな、迷惑がかかるようなことをして…光汰の手を煩わせた。
……やっぱりあの時、引き返していれば良かったんだ。
今になって激しい後悔の念が湧き上がってくる。
”つまり嫉妬か。………………醜いな”
「っ、」
さっきの光汰の言葉を思い出し、再び胸がつきん、と痛む。
嫉妬……。
俺の中で歳を重ねるにつれてどんどんと膨れ上がっていった感情。
バレた…のかな。俺の汚い中身が。
「…中身だけじゃないか……同じ男に、二度も簡単に襲われるなんてな…」
昨日触られたあの感覚が鮮明に思い出されて、俺は自分の肩を強く抱いた。
きっともう……元には戻れない。
「は……ははっ…は、っ………」
涙の代わりに乾いた嗤い声が零れる。
光汰に嫌われた───ショックなはずなのに、今の俺にはなぜか悲しいという感情はない。
何も感じない……ただただ感じるのは虚無感、脱力感だけ。
「やっぱり……俺には似合わないよ、この名前。」
光汰も────離れていってしまった。
きっと坂口だって………
「ははっ……っ、俺はまた、一人になったんだぁ…」
俺の声を合図にするかのように雨が激しさを増していく。
…そうだ………帰らないと。
ふらふらと立ち上がり、おぼつかない足取りで来た道を戻り家に帰る。
傘もささず時折よろめきながら歩く俺に、通行人の無遠慮な視線が絡みつく。
気に留めず歩き続け、やっと暗い玄関にたどり着く。
風呂を沸かす気力もなく適当にシャワーを浴びて着替えると、濡れた髪も乾かさずベッドに倒れこみ、俺はそのまま泥のように眠った。
今はもう──────何も考えたくなかった。
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