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強く。 *光汰side*
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「…………、」
冷たいシャワーの水が頭を濡らす。
「………だめだ」
いくら冷水を被って頭を冷やしても気持ちはいまだに昂り、冷静な判断は出来そうになかった。
「近付くな……なんて、俺が言えることじゃねぇだろっ、……」
―――でも、これで春が幸せになれるのなら。
今の春には坂口がいるし、その他のクラスメイトとも取り立てて悪い噂がある訳でもない。
むしろ今までは俺が春に近付こうとする奴らを意図的に追い払ってきたから、俺がいなくなったことで他の人とも良好な関係が築けるだろう。
俺がそばにいなくても大丈夫。
昔とは――――――違う。
何かに抉られたようにずきずきと痛む心を無視していると、ふと一つの疑問が浮かんでくる。
一人で行くのがどれほど危険かってことぐらい、分からないような春ちゃんじゃない。…だとしたら、どうして一人でなんて?分かっていても―――自分の身を危険にさらしてでも、彼の足をもう一度あの場所に向けさせたものとは…一体何だ?
必死に考えても今の春ちゃんの考えていることなんて想像がつくはずもなく、俺は効力のない水浴びをやめて風呂場から出た。
……まぁなんにせよ、あいつらが俺を目的に春ちゃんに手を出したのは明らかだ。
「怒って…るだろうな、春ちゃん。俺の問題なのに巻き込んで、こんな……。理不尽にあんなこと言って、怪我までさせて…」
大切にしたいだけなのに。
ただ……好きなだけなのに。
どうして上手くいかないのだろう。
春ちゃんを遠ざけることしかできない自分が歯がゆくて、情けない。
結局俺は、昔と何一つ変わっていない。
………本当は気付いていた。
感情表現が苦手だというだけで春ちゃんがいじめられるはずがない、ということに。
人見知りを克服してからというものクラスにいるときは常に周りに人がいた俺だが、その時間のほとんどを春ちゃんの隣で過ごしていた。
それが気に入らなかった何人かが、最初はほんの少しだけ。ちょっかいをかけてやろうとしただけだった。
しかし学校という閉鎖的な空間においてそれは瞬く間に集団へと広がり、最終的には俺のことを知らないやつまでそれに参加し始めるなんて有様だった。
春ちゃんは悪くないのに。
全て、それを止められなかった俺のせいなのに。
「ハッ………本当、最低だな。俺…」
胸を張って、春ちゃんの隣に居られるように。
春ちゃんがもう二度と、傷つくことがないように。
俺はもっと……強くなりたい。
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