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初めまして。 *光汰side*
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「お父さんもお母さんも、遅いなぁー……」
新しい家の近所にある公園はいつも子供たちの声で賑やかく活気にあふれているが今は自分一人しかおらず、しんと静まり返っている。
さっきまで楽しそうに遊んでいた子たちももう帰ってしまって、見上げた空は濃い夕焼け色でもうすぐ夜が来ることを告げていた。
「あーあ…こんなことなら、家を出る前にちゃんと確認すれば良かった…」
ここに引っ越してから約一週間が経ち気が緩んだのだろうか、いつもなら必ずするはずの鍵の確認を今日は寝坊して結局することなく登校してしまった。
学校では初日こそ目新しく興味があった転校生にも、三日経過した頃には皆慣れてだんだん騒ぎも収まっていった。
自分と違ってほかのクラスメイトたちの間には”昔からの付き合い”、という一言でいえば見えない団結力のようなものがある。
だから、”よそ者”である自分はクラスから少し浮いてしまっていた。
でもその原因は自分にもあり、極度の人見知りだったせいでせっかく誰かに話しかけられても、それに上手く返すことが出来ずにいた。
本当にこれから……上手くやっていけるのかなぁ。
「一人は……いやだよぉ。本当はっ…ほんとは、みんなと仲良くしたいのに……うっ、…ひっく……」
言いようのない不安に襲われて、まだ幼い心は押しつぶされそうだった。
「何してるの?」
小さな体を丸めて俯きすすり泣いていると、頭上から男の子の透き通った綺麗な声が聞こえてきた。
人の気配に全く気付かなかったので驚いて顔を上げるとおつかい帰りだったのだろうか、華奢な身体とは正反対に重そうな買い物袋を一つ下げている。
女の子のように可愛らしい顔立ちをしているのに媚びるような雰囲気はなく、周りの空気はまるでそこだけ澄んでいるかのように凛としていた。
整った顔の中に収まっている大きな瞳は、ぱちくりと不思議そうにこちらを見つめては瞬いている。
”何か言わなきゃ”
そう思っているのに人見知りな性格が邪魔をして思うように声が出ない。
そんな自分を見て男の子は何かに気付いたようにくるりと踵を返すと、何も言わずどこかへ走って行ってしまった。
「あ………」
……呆れられた…?
また、何も言えなかった。
悲しい思いが心から溢れ出し涙となって体の外へ外へと流れだしていく。
「うっ……ひっく…ぼ、くの……バカっ…!もう……ひっく…やだよ……」
さっき以上にさらに体を縮こめてまた泣き出す。
どうして自分はこうなのだろう。
もうこんな自分はいやだ…嫌いだ……!
「っねぇ、」
「………へ…?」
恐る恐る顔を上げると、目の前にはまたさっきの男の子が立っていた。
どうやらあれからずっと走ってきたようで、息は切れて細い肩が上下に動いている。
訳が分からずきょとんとしているとその子は落ち着こうと何回か深呼吸をしてからぎゅっと握っていた小さな手をこちらに向かって突き出してきた。
「……手、出して」
「え……う、ん…」
素直に手を出すと開いた掌にころん、と小さい何かが乗せられた。
「これ……キャラメル………?」
「うん。…それ、あげる」
「えっ…な、なんで?」
「う……だって。泣いてた、から……」
そう答えると男の子は恥ずかしそうに、雪のように白い肌をほのかなピンク色に染めてそっぽを向いた。
ああ…この子は優しい子なんだ、と思った。
泣いている見知らぬ子どもを放っておけなくて。
分からないなりに必死に慰めようとする。
でも口下手で、思いを上手く伝えられない。
勘違いされることもあるけれど、綺麗で、あたたかい。
今も昔も変わらない 俺の可愛い幼馴染……。
「春ちゃん…大好きだよ」
この言葉を言う度に密かに込められた親愛以上の思いに。
君が気付く日は………来るのかな。
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