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「お邪魔します、」
「どうぞ。」
電車に揺られ、ようやく自宅に到着した。
鍵を開けて玄関の扉を引くと、直ぐにルナが足元に駆け寄ってくる。
抱き上げ、安藤に渡すとまだ小さい猫はその腕にすっぽりと収まった。
「わっ、ちょっと大きくなったね…久しぶり、ルナ。」
「にゃー。」
感触を確かめるように、安藤はぎゅっとルナを抱きしめる。
ルナは嫌がる素振りを見せることなく、目を細めて可愛らしく鳴いた。微笑ましい光景だ。
「ルナに首輪買ってきたんだよ、あとおやつとおもちゃと……、」
「どうりで大荷物だと思ったらそういうことか。」
持参したやけにでかいリュックサックにはルナへのお土産が詰まっていたようだ。
俺もバイト先でもらったささみ肉を皿にのせて床に置いてやった。
ルナはいつものエサとは違う食事が嬉しいのか、それをあっという間に平らげてしまった。
「浅陸くん、ありがとう。ルナを引き取ってくれたのが浅陸くんで良かった。」
安藤はニコニコしながらルナを見つめていたかと思えば、突然俺に向き直って真剣な顔でそう言った。
何を思ってそう発言したのか、その意図は分からないが、買いかぶり過ぎている。
たまたまあの場に居合わせたのが俺だっただけで、きっと誰に貰われたってルナは幸せだっただろう。
それに、この性格なら誰にだって可愛がられる。
学校やバイトで家を空けることが多い俺よりもずっと適任の飼い主はいたと思う。
「こいつは安藤に飼われたいと思ってると思うよ。」
俺はあの時、貰い手のない子猫を哀れんで飼い主を名乗り出たのではない。
それ以上に、安藤陽汰という人間に興味がわいたから。
無意識のうちに接点が欲しかったんじゃないか。そんな……不純な動機だ。
「でも…ルナは幸せそうだ。」
「安藤。俺はさ、そんな出来た人間じゃないんだよ。」
だから、遠慮すんじゃねぇよ。
声には出さず、安藤にそう訴えかける。
クラスメイトだろうが。学校でだって堂々と話しかけろよ。
安藤は前に、自分とは住む世界が違うなんて言ってたけど、俺もお前も何も変わらない。
せいぜい育った環境が違うくらいだろ。年もクラスも性別も同じ。
遠慮する理由が見当たらねーよ。
「--ひなた。」
「……え、」
「陽汰って、呼んでもいい?俺のことも世留でいい。」
安藤……いや、陽汰は俺の言葉に壊れた人形のように首を縦に振る。
そして、遠慮がちに世留くん、とこれまた消え入りそうな声で呟く。
その顔は耳まで真っ赤で。
……なんで名前を呼んだだけで照れるんだ。
「腹減った。飯食おう、陽汰。」
「う、うん。……世留くん。」
きっと、一歩ずつだが前進している。
いつか学校でもこんなふうに陽汰と会話出来る日がくればいい。
その日はそう遠くではないんじゃないか。そんな予感がしていた。
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