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--子猫を拾ったことで、こんなにも日常が変化していくなんて。
電車に揺られながらそんなことを考えているせいか、イヤフォンから流れる好きなアーティストの曲と手元の文庫本へ、なかなか意識が集中しない。
ここのところ、そんなことが続いていた。
今日の授業を終え、部活もバイトもしていない陽汰は早々に帰路についていた。
教室でクラスメイトと話し込むこともなく、真っ直ぐと家に向かう陽汰はある意味で学生の模範かもしれない。
今まではそれが当たり前で、これからもそんな日々が続くと思っていた。
ぼんやりと頭に浮かぶのは拾った子猫と新しく出来た友人のことばかり。
家族以外に名前を呼ばれたのは一体何年振りだろうか。
どこかむずかゆいような気はずかしいような、そんな不思議な気持ちになる。
きっと嬉しいのだ。
自分から人との距離を置いていたくせに、誰かに自分の存在を認めて貰えたことが。
世留との時間は心地がいい。
気を張る必要がなく、口下手な自分の話をきちんと聞いてくれる。
世留と接するようになり、彼が人に慕われる訳がわかったような気がした。
あんなにもなんでもできる人なのにそれを鼻に掛けず、対等であろうとしてくれる。
それに、何より彼は人がいい。
まだ知り合って日が浅いのに、色々と自分のことを気に掛けてくれる。
最近も、佐伯先生には気を付けろと言われたばかりだった。
確かに係の関係で話しかけられることが多く、それで心配してくれているようだった。
彼の気にしすぎだとは思うが、何かあればすぐに頼れと世留は言ってくれた。
なんて素敵な人なんだろう。
彼のことを知れば知るほどにそう思う。
そんな人と仲良くさせて貰っていることが今でも信じられなくて、実感も沸かない。
でも、こんな幸せな時間はきっと長くは続かない。
世留には友人が多い。自分など彼には釣り合わないから……。
だから、少しでもこれからの世留との時間を大切にしたい。
胸がギュッと苦しくなり、目の前が霞む。
結局全く読み進まなかった本を閉じ、ミュージックプレーヤーから流れる音楽に耳を澄ませる。
ブレザーの袖口で目もとを拭うと、鼻の奥がツンとして痛かった。
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