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適当な理由をつけてコバセンから陽汰の家の住所を聞き出し、早足でメモに書かれた場所へと向かう。
ルナを拾った公園からほど近い場所にあるマンションだったため、迷うことなくすんなりとたどり着けた。
インターホンを鳴らすと、陽汰の母親とみられる女性がドアを開けてくれた。
ぱっちりとした目元が陽汰とよく似ているような気がした。
「はーい。あらあら、ハンサムな子!」
「突然訪問してすみません。陽汰くんと同じクラスの浅陸といいます、陽汰くん帰ってきてますか。」
「ええ、陽汰なら部屋にいるけど……。」
「すみません、お邪魔します。」
失礼とは分かっていながら、許可を得る前に靴を脱ぎ玄関を上がった。
しかし陽汰の母親はそれを咎めることはせず、陽汰の部屋なら廊下を突き当たって右の部屋よ、と言って微笑んだ。
お辞儀をして、一直線にその部屋のドアの前まで歩み寄る。
深呼吸を一つして、ドアをノックする。
俺は返事を待たずに、そのドアを開けた。
「っ、よる……くん、」
「お前、それ……、」
突然開いたドアに驚いたようで、びくりと小さな背がはねるのが分かった。
陽汰は俺の顔を見て目をいっぱいに見開いたかと思えば、慌ててベッドの上の布団をたぐり寄せて頭から被った。
部屋の真ん中に座り込んだ陽汰の手には工作用のハサミ。
足元には新聞紙が敷かれ、その上には黒い何かが散乱している。
普段なら長い前髪で隠されているはずの目はすっきりと晒されており、その光景を見て一瞬で何が起きたのかを悟った。
……それにしても、もう少しうまいこと切れただろうに。
「み、見ないで……!」
「いやいや、お前それはねぇよ。てか、なんで自分で切るかねぇ。」
「だって……さっきの男の子に言われたから。僕みたいなのが世留くん達の傍にいたら迷惑だって、わかってた……。けど、」
一緒にいたいから。
消え入りそうな声で、真っ赤な顔で言う。
その言葉を聞いて、思わず顔がにやけそうになるのをなんとか堪えた。
陽汰から、一緒にいたいと言った。言ってくれた。
それがどんなに嬉しいことか。
「それで……なんでそんなヘッタクソな髪型になったんだ。」
「とりあえず見た目だけでも、変わらなきゃって思って……。そしたら、なんか変になっちゃった…。」
どうしよう世留くん。こんな頭じゃ学校行けない、と今にも泣きそうな顔で真剣に言うものだから、とうとう吹き出してしまう。
有り得ない。まさか誰がこんな展開予想しただろうか。
見れば見るほどに笑える。いくらなんでも下手くそすぎるだろうが。
声を押し殺して笑っていると、笑わないでよと困った顔で言うものだから余計に笑ってしまう。
「もう、世留くん!ほんとに困ってるのに……っ!!」
「悪い、っくく……とりあえず、それどうにかしようぜ。」
斜めにバッサリと切られた前髪は一見大惨事とも言えるが、元の長さがある為、いくらでも対処のしようはある。
……仕方ない。あの人に頼むか。
スマホからとある番号に電話をかける。
もしかしたら繋がらないのではないかという杞憂もあったが、すぐに着信が繋がった。
「ユキさんですか?いきなりすみません。……はい。ちょっと事情があって、今から1人友人連れていきたいんですが……はい、ありがとうございます。急ですみません。お願いします。」
大丈夫?という顔をした陽汰に、視線で任せとけと合図を送りつつ、電話先の人と約束を取り付ける。
電話を切り、現在の時刻を確認すると18時を回ったところで。
約束の時間が19時……ギリギリだな。
「髪、今から切ってくれるって言うから行くぞ。時間がない。」
「えっ、あ、うん……分かった。」
電車を乗り継いで40分ほどかかるため、今から出てなんとか間に合うかというところ。
着替える暇も無いため、制服で行くか。
陽汰もとりあえず財布と定期券だけもったようで、急かして部屋を出る。
頭には深く帽子を被っており、再び笑いがこみ上げてきたが、顔を赤くして怒る陽汰に免じて、あまり笑うのはよそう。
「あら、もう帰っちゃうの?って、ヒナ……貴方、どうしたのその頭。」
「もう、母さんまで……。」
「ちょっと陽汰くん借ります。この髪どうにかしなきゃいけないんで。」
靴を履いていると、残念そうな顔をした陽汰の母親が見送ってくれる。
さっきは失礼を働いてすみませんでした、と頭を下げると、気にしないでとあっけらかんとした様子で言われる。
なんだか妙におっとりとした人だ。この親あってこの子あり、か。
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