アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
5
-
***
正確な手つきで髪を滑る鋏に見とれていると、ねぇと美容師さんに声をかけられる。
緊張のためずっと俯いていた顔を上げると、目の前に映る鏡の向こうで優しいげな瞳と目が合った。
「陽汰くんは、世留の友だちなんだよね。クラスが同じなんだって?」
手は動かしたまま、穏やかな表情でそう問いかけられ、僕はたどたどしくもその質問に答える。
それから、世留くんに紹介された雪慈さんという美容師さんと話しをした。
接客トークなのだろうが、雪慈さんはとても気さくに話しかけてくれるため、少しずつ緊張が解けてきたような気がする。
オシャレな美容院なんて無縁に生きてきたが、雪慈さんの無駄のない手つきにトークのうまさを考えれば、きっと人気のある美容師さんに違いない。
そんなところにいつも通っている世留くんは、やっぱり凄くオシャレな人なんだろう。
「……世留くんは、いつからここに通ってるんですか?」
「そうだねぇ、だいたい5年くらい?俺が独立してこの店を持ったのが2年前で、世留は俺が前の店にいた時からのお客さんなんだよ。」
基本的に世留くんは雪慈さんにしか髪を切らせないらしく、今日のことはカットモデルとはいえちょっとジェラシーを感じていると雪慈さんは笑って話す。
でも、従業員のスキルアップの為なら俺も嬉しいと、雪慈さんは優しい顔つきをしていた。
「だからさ、俺は割と世留の性格とか理解してるつもりだったんだけど、今日陽汰くんを連れてきたのはちょっとびっくりした。」
「え、それは……?」
「陽汰くんは知らないかもだけど、あいつ割とドライっていうか。本来はそこまで世話焼きな性格じゃないんだよね。」
確かに、雪慈さんの言葉と僕の知っている世留くんは少し異なっているように思える。
僕の代わりにルナを引き取ってくれたり、佐伯先生の件で心配してくれたりと、世留くんは僕のことをよく助けてくれる。
ドライというよりは、むしろとても情に厚い人なんだと勝手に思っていた。
「まぁ、陽汰くん可愛いし。構いたくなるのかもね?」
「かわっ、えっ、」
「ふふ。俺もね、君に似た子を知ってるんだけど、何故なんだろうね。普段は適当人間な俺が、その子には甲斐甲斐しく面倒見てやりたくなっちゃうんだよなぁ。」
世留もそんな感じなのかな、と感慨深そうに言う雪慈さん。
それに対して、僕はなんて言えばいいのかわからなくて、そうなんですね、とやっと言葉を吐き出した。
改めて言われたことを思い返せば、まるで世留くんにとって僕が特別だと言われたような気がして、自分の顔が紅潮していくのがわかった。
そんなの自意識過剰も甚だしいのに、そうであれば嬉しいと思ってしまう自分がいて。
ますます頭が混乱してしまう。
「世留ってモテるんだろうけど、何故か恋愛には消極的なんだよね。あいつ遊んでそうに見えて、意外と誠実だし。そんで、余計にモテるってパターンだと俺は見てる。」
「はい。世留くんは、人気者です。男女問わずみんな慕っているというか……。」
「天性のカリスマ性があるのかもね。初めて会った時もなんか雰囲気の違う子だなって思った。」
それはきっと雪慈さんも同じだからこそ分かることなのだろうが、僕から見ても世留くんは凄い人だと感じる。
そんな人と仲良くしてもらっていることに改めて恐れ多いと感じてしまう。
でも、そんな世留くんや最近仲良くしてくれてる神崎くん、戸田さん、潮さんたちとの時間がとても幸せで。
これからも彼らと一緒にいたい。
僕は変わりたくて……気付けばいま、ここにいる。
「ふふ。陽汰くんは、世留のことが大好きなんだね。」
「あ、ぅ……はい…。僕、世留くんのおかげで毎日が楽しいんです。笑ってばっかりで、まるで夢みたいな時間を過ごしてるようで。」
「いいなぁ〜。若いなぁ、うんうん。青春っていいよね。オジサンも学生時代に戻りたい。」
そう言って泣く真似をする雪慈さんがおかしくて、失礼だと分かっていながらも思わず笑ってしまう。
それにまだオジサンなんて年じゃないのに、なんて愉快な人なんだろう。
すると、僕の顔をまじまじと見る雪慈さん。
変な顔してたかなと不安になっていると、ゴメンゴメンと笑って言われる。
「陽汰くんは笑った方が何倍も良いね!よーし、陽汰くんに似合う素敵ヘアーになるよう一層頑張らなくっちゃ!」
不思議と張り切る雪慈さんに、僕はよろしくお願いしますと頭を下げる。
その後の工程としては、ある程度髪を切り、良く分からない薬品を髪にまんべんなく塗りつけられた。
薬品が髪に馴染むようしばらく機械で頭部に熱を与え、シャンプーで薬品を落とせば。
「わぁ、凄い……。」
「明るすぎない程度のブラウンにアッシュを入れたから落ち着いた感じに垢抜けたでしょ?」
仕上げにもうちょっと切るね、と言われ、再びケープをかけられる。
乾かせばもう少し明るい色になるとのことだが、今の段階でも目に見えて変化がわかる。
今まで長く伸ばした前髪や重たい印象だった黒髪が、雪慈さんが手を加えることでこうも大きく変わるとは。
「はい、完成。俺の見立て通りの美男子になったね、陽汰くん。」
最後にドライヤーで髪を乾かし、ワックスと呼ばれる整髪料で髪を整えれば、まるで雑誌のモデルさんのような髪型に変身した。
雪慈さんによると、ブラウンアッシュという髪色にマッシュベースの髪型に仕上げたとのこと。
全体的にはあまり短すぎず、ボーイッシュな女の子がしていてもおかしくなさそうな髪型にも見える。
果たして自分に似合っているのかは分からないが、雪慈さんは満足げに何度もうんうんと頷いている。
雪慈さんはニコニコと笑って、写真撮ってもいい?と僕に尋ねる。
それに了承すると色んな角度から何枚も撮られ、写真がぶれてはいけないと思っているうちに、気付いたら息を止めていた。
苦しくなってきた頃に雪慈さんが僕の異変に気付き、やっと呼吸をすることが出来たのだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
21 / 27