アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
第7夜 母の愛。
-
*
ーーーその夜、僕はある夢を見た。
それはどこかの国の草原。
何もない、緑豊かな一面の草原に僕は1人立ち尽くしていた。
月明かりしかない夜の世界で、緩やかな風が吹き抜ける。
遠くで何かの気配を感じた。
それに反応して振り向くと、そこには1人の女性がいた。
その人を見て、僕は大きく目を開いた。
白のワンピースに、ツヤのあるきめ細やかな肌。
揺れる長髪は、僕と同じ髪質をしていた。
ーーーそれは、幼い頃に死んでしまった若き母の姿だった。
彼女は僕を見て、嬉しそうに微笑む。
何も言わない母は、僕を優しく抱き寄せた。
ゆっくりと僕の頭を撫で、語りかけるように口を動かす。
何を言っていたかは全く分からなかったけど、それでも心が癒され安らいだ。
ピピピッ……
ピピピッ……
携帯のアラームで、僕は目を覚ます。
「……ん……。」
ぼんやりとした意識の中、
手探りで携帯を探し出し、アラームを止める。
すでに日は昇っていて、カーテンから漏れる日差しに目を細めた。
ベッドから起き上がり、
ボサボサになった髪の毛を少し乱暴に掻く。
「……変な夢だったな……。」
いつもならすぐ忘れるはずなのに、今日の夢は鮮明に覚えていた。
心が奪われるかのような綺麗な草原。
緩やかに細められた、母の笑顔。
包み込まれるような温かな感触。
それがすごく不思議で、僕は首を傾けた。
(だけど、その夢のおかげで少し元気が出たような気がする……。)
「よし。」
パチンと気合いを入れる意味で、軽く頬を叩く。
次のバイトは3日後。
その日、僕はまーさんに告白する。
面と向かって告白して、潔く振られよう。
そんな日、本当は来て欲しくなかったけど
それよりも僕は、このもどかしい気持ちをなんとかしたかった。
(…………振られたらどのくらいの期間引きずるんだろう……。)
「……って、ダメだダメだ!
悪い方法に考えるなぁぁ……自分!!」
頭の中にあるネガティヴな感情を振り切り、僕は洗面所へと向かっていった。
髪の毛を整えた後、軽い服装に着替え朝ごはんを食べる。
歯を磨き、教材の入ったカバンを持って家を出た。
暗い感情にならないよう、頭の中で必死に別のことを考える。
ーーー学校に着いた頃には、あの夢のことなどすっかり忘れていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
62 / 83