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②金城→←荒北
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「いきなり来て、サイクリング行こう!じゃねーよ。何時だと思ってやがる」
携帯の目覚ましを消して二度寝を決め込み布団に潜る時に、インターホンは鳴った。
それはまだ静かなアパートに響いたのではないかと思えたほど、俺の体を叩き起こした。こんなに効いた目覚ましを俺は初めて経験させて貰った。
二度鳴らされないように徒歩六歩で玄関に急ぐと、鍵をかけ忘れていた扉を開け、冒頭の台詞を声を殺して発した。
「春休みも規則正しいリズムで生活するべきだぞ荒北」
奴は爽やかに笑いながら、おはようと付け足した。
「るっせ。母ちゃんかよ」
サイクルジャージで身を固め、ロードと一緒にインターホンを鳴らされたのは朝の6時半。
「……レースの下見だっけェ?」
働き出さない頭をボリボリかいて、ずり落ちようとするジャージの紐を引っ張った。
「そんな所だな。必要なモノはコンビニでも寄れば良い。先ずは顔洗ってこい」
「朝からうるせーな。支度すっからァ、中入ってれば?」
意外そうな顔で奴は笑った。ご丁寧に挨拶をしてから奴は部屋に入ってきた。
歯を磨く途中奴を振り返れば、見渡すまでもない狭い部屋の何を見たのか、立ったままフムと言った顔で腕を組んでいた。
「案外綺麗にしているんだな」
「一言余計だっ。TV付けてイーよ」
「そういえばスカパー付けてたんだったな」
金城がリモコンを操作しながらチャンネルを変えていく。
「地上波見ねぇから、自転車と野球ばっかな」
「いいな。俺はもっぱらPCだからなぁ」
顔を洗い服をサイジャに着替え、開けた冷蔵庫から水とスポーツドリンクを各々ボトルに入れ替えた。
炊飯器に残っていた白米を二つのラップの上に分け適当に塩をかけて鮭フレークを置きいれるとラップごと握った。それを背中のポケットに突っ込んだ。
「なに金城、マジで見てんの?」
「…動けなくなるから消さないと…な」
と言いながらも画面を食い入るように見ているのは『ツール・デ・フランドル』。ただでさえ足場の悪い石畳のコースに加えて急坂、体力消耗甚だしいレース後半にその悪路は連続して攻めてくる。落車を回避しつつも勝負をかけるその精神力は、石畳の少ない日本ではなかなか体験出来るものじゃない。
「録画してるから帰ってきたら見てけよ」
「ああ。楽しみだ」
今度こそTVを消した金城が便所を借りると言って立ち上がった。俺は電気を消して、朝日の差し込む奴が座っていた場所に少しだけ夢を見る。
明日起きて最初に見る顔が、金城だったら、と──
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