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「せい、ボーッとしてどうかしたの?」
オレの顔を覗き込む兄ちゃんの瞳。
小さいオレに合わせて、腰をかがめてくれる兄ちゃんの優しさに気づき、オレは顔を上げた。
「なんでもない、それより兄ちゃん。可愛いって普通は女の子に言う言葉だよ?」
赤らめた顔も、うるさい心臓も。
兄ちゃんには知られたくなくて、オレは兄ちゃんからそっと離れて距離を置く。
本当は、優しくて温かい兄ちゃんの腕の中にいることが出来てとっても嬉しかったんだけど。照れ隠しのつもりで呟いたオレに、兄ちゃんはこう言って微笑んだ。
「女でも男でも、可愛い人に可愛いって伝える事の何がダメなの?それともせいは、俺に可愛いって言われるのイヤ?」
「……いやじゃないけど、オレももう高校生になるんだよ?可愛いからは卒業したいかなって」
兄ちゃんから可愛いって言われるのはイヤじゃないし、むしろ嬉しいこと。でも、オレも出来る事なら兄ちゃんみたいに大人の色気ってのを身につけたいから。
オレも数年経ったら、兄ちゃんみたいになれるのかな……なんて、少しだけ期待してしまうのは、春のポカポカとした陽気の所為だと思う。
「可愛いからは卒業ねぇ、その考えがせいの可愛さの1つなんだよ?せいにはせいの魅力がちゃんとあるんだから……ほら、鏡みてごらん?」
兄ちゃんにそう言われて、オレは鏡を覗き込む。
ブレザーの制服を着てるってだけで、普段とさほど変わりのないオレの姿。
「兄ちゃん、ごめん。鏡見ても、オレの魅力なんてわかんない」
「そう?大きくて真っ黒な瞳も、艶がある髪も、白くて綺麗な肌も。外見だけじゃなくて、ふんわりとした雰囲気、全てがせいの魅力なんだよ?」
自分ではわからないけど。
兄ちゃんがそういうのなら、そうなのかな?
でも何だか恥ずかしい。
「真っ赤になっちゃって、やっぱりせいは可愛いね」
「え、ウソ。兄ちゃんと話してたらこんな時間!?」
オレを可愛いと言って笑う兄ちゃんから視線をそらして時計を見ると、家を出る予定の時刻を3分程過ぎていた。
入学早々遅刻しちゃうのはさすがにまずいし、朝はちゃんと余裕を持って行動しようと思っていたのに。兄ちゃんに抱き締められて浮かれてしまっていたオレは、慌てて真新しい鞄を取ると、笑っている兄ちゃんを部屋に残して大急ぎで家を出たんだ。
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