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④にしおりをはさみました!
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④
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上手く呼吸ができずに、俺は、はくはくと浅く喘ぐ。
ゆっくりと慎重に押し進められる腰が苦しくて、ひたすらに一ノ瀬くんへとしがみついていた。
「一ノ瀬くんっ…俺……!」
何が言いたいのかも分からず、ただ意味の無い言葉を口にする。
緊張。不安。羞恥。少しの怖さ。
それらの感情が、身体を強張らせた。
指先まで、全身が痙攣したみたいに震える。
「…っ佐伯さん、力抜いて」
「や、だって……っ、分かんな、ぁ…」
力を抜いてなんて言われても、そんなことは意識的に出来ることではない。俺はどうしたらいいのかも分からなくて、一ノ瀬くんの言うことには沿えなかった。
一ノ瀬くんの表情は見えなかったが、時々零れる吐息はきつそうで。
「じゃあ、深く息を吸って…」
何とか一ノ瀬くんを楽にしてあげたいと思って、俺はその通りに息を吸い込んだ。
しかし、なかなか乱れた呼吸では、上手に息を吸うことも難しい。
「吐いてください」
「は、ぁっ……はぁ…っ」
深呼吸。
過呼吸になった時には何度もやったことがあるから、少しは慣れているはずなんだけど、今日、この状態ではまともに息ができない。
吸っている途中でも、吐いている途中でも、呼吸は不定期に途絶えた。
(苦しい……)
そう思いながらも、無理矢理に深い呼吸を繰り返す。その間にも、質量は中へ中へと次第に押し入ってきて。
声は殺したいけれど、呼吸も整えたいから口を塞ぐことはできなかった。
「はっ…は……ぁぁ…っ」
「佐伯さん、もう少し、頑張って」
もう少しって、あとどれくらい?
俺からは何も見えなかったから、この時間がすごく長く感じた。
俺の上に覆い被さるようベッドに手を付く一ノ瀬くんは、気遣いなのか、一度だけそっと俺の頬を撫でる。
夏でもないのに、微妙に汗が滲んで暑かった。
「……苦しくないですか」
「少し、だけ……」
僅かに呼吸を落ち着かせたお陰か、一ノ瀬くんの腰は完全に最後まで進められる。力を抜くと楽に入るなんて、初めて知った。
それに、苦しいだけで痛くはない。
痛くないなんて、今までなら有り得ないことで。
一ノ瀬くんは痛くしない。
それが分かっただけでも、俺はすごく安心した。
(良かった……)
そして俺は、今度こそちゃんと深呼吸をしてから、少し身体を離して一ノ瀬くんと顔を合わる。
「…俺、ちゃんと頑張れていましたか……?」
俺は不安げに聞くが、一ノ瀬くんは優しく口角を上げて言ってくれた。
「はい。よく頑張ってくれたと思います」
そして、頭を何度か撫でられる。
その声も、行動も、温かさも、俺には何もかもが心地良かった。
やっぱり俺には、一ノ瀬くんしかいない。
一ノ瀬くんじゃないと駄目なんだ。
なんて、まるで依存しているようなことを考える。
一ノ瀬くんの笑顔に釣られて、俺まで頬が緩んでしまった。
「……遥斗くん」
わざとそうやって名前を呼んでみると、一ノ瀬くんは困ったような顔をしながらも、僅かに頬を赤くした。
「もういいですよ、下の名前で呼ばなくても」
「どうしてですか」
さっきまで、俺にあんなに名前を呼ばせていたと言うのに、なぜ今更になって照れるのか。
普段はあまり見ない一ノ瀬くんの反応に、俺は少し楽しくなってしまう。
「遥斗くん」
もっともっと、こうやって一ノ瀬くんを困らせたいなんて思って、俺は何度も一ノ瀬くんの名前を口にした。
しつこいくらいに、何度も何度も。
その度に一ノ瀬くんが困り顔になって赤面するから、俺だって調子に乗ってしまう。
「……遥斗」
そう小さく呟いてみると、遂に一ノ瀬くんは長い溜息を吐いた。さすがに言い過ぎたかと咄嗟に口を噤むが、俺は軽く一ノ瀬くんに睨まれる。
一ノ瀬くんの腕で頭の両サイドは塞がれるし、そもそも繋がっているしで、俺は一ノ瀬くんからは逃げられなかった。
そして、俺が何も動けない間に、ゆっくりと一ノ瀬くんの顔は近付いてきて。ぎゅっと目を閉じると、柔らかく唇が押し当てられる。
「…っ……」
触れるだけの軽いキスは、心に安息を与えた。
「そんなに襲われたいですか…」
(どうして……)
その表情は欲情の色を表していた。
その瞬間、やっぱり一ノ瀬くんは男なんだ、なんて思ったりして。
「……陽裕さん」
とか、耳元で囁かれたら、俺まで顔を赤く染め上げる他なかった。
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