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男娼とヤクザ/シーズン1(第6話)
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閑静な住宅街。
繁華街の賑わいとは相反し、耳を掠めるのは、時折スレ違う車のエンジン音だけ。
こないな場所があったんや……………。
身体の痛みに背中を丸め、ぼんやり外を眺める大和は、嵩原に肩を抱かれて車に乗っていた。
もう、抵抗する気力もない。
あれから乗るまでは、周りにいた組員達が絶句する程嵩原を罵倒したが、結局赤子のように扱われて終わり。
無理矢理車内に連れ込まれてからは、グッと身を寄せ支えられてる。
しかも、それが不思議と身体にも楽なのだから、益々動けない。
悔しいが、まるで自分の痛む部分をわかっているように、嵩原の腕が身を包む。
「………………静かな街やな」
流れる街並みを見つめながら、大和はポツリと呟いた。
別に、嵩原に相槌を求めた訳ではない。
幼い頃から、自分の生活はいつも騒がしかった。
酒浸りの父親と、男遊びの激しい母親。
喧嘩が絶えず、大和もよく父親に殴られた。
家にいるのが苦痛でしかない毎日。
そんな日々しか知らない大和には、車窓から見える世界が、まるで別世界に見えた。
きっと、あんな家に住む連中は、自分とは真逆の生活をしているのだ。
自分には想像すら出来ない人生を送り、『幸せ』と言うものを味わいながら、一生を終える。
幸せと言う、一生を……………。
「ああ、ホンマに静かや……………」
「…………………え」
だが、嵩原は答えてくれた。
大和が驚いて顔を上げると、嵩原も同じように外を見ていた。
ドキッとするような眼差し。
この男は、危険。
頭の中ではわかっているのに、目がそこから離れない。
高い鼻も締まった唇も、少し垂れた前髪から覗く美しい瞳も、全てが魅惑的で、胸が高鳴る。
苦しくて、苦しくて。
大和は汚れた服の上から、胸元を握りしめた。
「嵩…………原…………」
名前を口にするのも、辛い。
何で…………………。
振り絞った声が、震えてる。
自分は、一体どうしてしまったのか。
「痛むか?もうすぐ俺の家に着く……………直ぐ手当てしたるから、あと少し辛抱せえよ」
その上、嫌みな奴は、こんな時に限ってやたらと優しい。
嵩原の胸に抱かれて、それを言われる心地好さ。
「…………………う、うん」
傷だらけの頬を厚い胸板へ擦り寄せ、大和は小さく頷いた。
キキィ……………………
それから5分くらいして、車は住宅街の奥で停車した。
裏手は、木々が生い茂る林。
運転をしていた組員が後ろのドアを開けると、嵩原が何も言わず先に降りた。
瞬間、大和の視界に一軒の豪邸が広がる。
格子状の大きな玄関扉。
そこから見える室内は、大理石のような玄関タイルと奥行きのある廊下、幅を取った階段が、綺麗なライトで浮かび上がってる。
すげ…………………。
ヤクザの幹部って、儲かるんだな。
言葉を失う大和に、嵩原は手を差し出し、声をかけた。
「大和、俺に掴まれ……………抱えてやるから」
「嵩原………………」
ここまで来たら、反抗意識など何処かへ消えてしまったよう。
大和は、言われるがままに素直に手を伸ばすと、自分を抱き上げる嵩原へしがみついた。
「お前ら、今日はもうええわ……………俺も、こいつを手当てしたったら寝るさかい、終いにせえ」
「わかりました。嵩原さん、お疲れ様でした……………また明日、いつものお時間にお迎えに参ります」
大和を抱える嵩原に促され、車2台に分かれ付いて来た組員達は、深々と頭を下げ、再び来た道を帰って行った。
嵩原は、組員達に随分一目置かれてる。
その身体に抱きつく大和は、遠ざかる車を見ながら、そう感じた。
ウィィィ………………ン。
玄関ドアは自動になっており、嵩原は難なく中へ入ると、右手に見えた扉のノブを器用に回して、大和をソファへと下ろした。
リビング?
ダウンライトに照らされた、高い天井に高級なソファやテーブル。
高橋の事務所にある物と似ている。
ブランド物だと、目に入った途端にわかった。
「ちょっと待ってろ……手当てする物、持って来る」
「あ、うん……………」
うん。
嵩原。
さっきから、それしか言ってない…………。
声を出すのも、何だか妙に緊張する。
静まり返った、家。
嵩原は一人暮しなんだろうか。
家族はいるんだろうか。
変な事ばかりが、グルグル頭を回る。
「…………………どうした?腹減ったか?」
「いや………………別に、飯は食わへん事多いし……」
「食わへん?………………だからか、背があるわりにはやけに軽かったんは。俺も、あまり家では食べへんからな………………いるもんあったら、遠慮のう言え。後で出前でも取ったるわ」
そう言って、嵩原は大和の頭を軽く撫でると、部屋を出て行った。
へ…………………。
固まったのは、大和。
「あ、あた……………頭………」
一気に、顔から火を噴いた。
「な、な、何やねん…………あいつ…っ」
頭を撫でられる。
子供の時、度々目にした他所の家族。
褒められる友達が、親に撫でられているのを見て、あれは何だと思ってた。
嬉しそうな、友達。
自分は、一度もあんな事をしてもらった記憶がない。
まさか、嵩原にされるなんて………………。
初めてだ。
初めて。
「嵩原のアホ…………………」
余計に、胸が苦しくなった。
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