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結局、課題が何も進まないまま午後になり、真鍋がやって来ていた。
「あの、翼さん…」
「はい」
「そのマフラーは何なのでしょうか…。室内ですが」
リビングに入ってきて、開口一番。
飛んできたのは怪訝な目と呆れた口調。
「あは、えーと?ふぁ、ファッション?お洒落!」
「……」
「き、気にしないで下さい!それより勉強…」
ジーッと向けられる視線が居た堪れない。
無理がある言い訳をしている自覚があるから尚更だ。
とにかく意識を逸らそうと、バタバタと教科書を開き始めたら、真鍋の派手な溜息が聞こえてきた。
「はぁぁっ。取って下さい」
「っ、だ、から…」
「どうせ会長のキスマークでも隠しておられるおつもりなのでしょう?私は気にしませんので」
むしろマフラーの方が余程気になる、と呆れ返っている真鍋は、変わらずクールだ。
「な、何で分かっ…」
「はぁっ。時間が惜しいので。そんなに気になるのでしたらどうぞ」
ツカツカと近づいてきた真鍋が、パシッとテーブルの上に小さな長方形の紙切れを置いた。
いや、形状からして、絆創膏か。
「あ、う…」
「ほら、早く準備をして下さい」
本当、この人、この前火宮にやり込められて慌てていたのと同一人物だろうか。
淡々と筆記用具を用意しているその姿から、全く感情というものを感じない。
「ねぇ、真鍋さん」
「何でしょうか」
「俺、今回の課題の範囲、何も分からなかったんですけど」
マフラーを外して、ありがたく絆創膏を使わせてもらい、何も書いていないノートを開く。
真鍋の目が白紙のノートに向かうのを、ドキドキしながら見る。
怒るかな?
別に怒られたいわけではないけど、この体温を感じない人を、少しでも熱くしたい、という思いがあったのも嘘ではない。
「何も、ね…」
「は、はい…」
「数学は、三角関数でしたね。わかりました、初めから解説していきます」
スッとペンを取り出した真鍋は、わずかも感情を揺らすことなく、淡々と教科書の図を指し示した。
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