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っ…。
「火宮さんっ、危ないっ!」
叫び声を上げながら、無我夢中で車から転がり出る。
開いたドアが邪魔で、けれどもつれるようにそれを回り込み、ナイフの刃先が向かう、火宮の前に飛び出す。
っ、この人だけはっ、絶対に傷つけさせない!
俺の何より大切な人なんだ。
火宮を害する者から守るためなら、刃物の前に身を晒すくらい、何も怖くない。
っ…。
両手を広げて、火宮と襲撃者の間に身を滑り込ませようとした、その、瞬間。
「馬鹿者ッ!」
耳がキーンとなるような怒鳴り声が、頭のすぐ上から聞こえてきていた。
「え…?」
「馬鹿者ッ…」
襲撃者から庇おうとした身体は何故か、反対に火宮の腕の中に抱き込まれていて。
焦りが心配に変わった火宮の呻くような声が、耳に突き刺さった。
「あ、え…俺」
「死ぬ気か、馬鹿」
「ごめんなさい…」
ぎゅぅ、と強く抱き締めてくる腕が小さく震えて、俺は火宮にどんな思いをさせてしまったのかに気がついた。
見れば襲撃者の方は、あっさりと池田に捕まり、ボカスカと、護衛たちに袋叩きにされている。
「おまえが飛び出さずとも、あんなやつの刃は俺には届かない」
そうだよね。火宮には、その身を命がけで護ってくれる人が何人もついているんだったよね。
「だからっ、2度とするなっ!」
「っ…」
「2度と、凶器の前に飛び出すなどっ。俺の盾になろうとなどっ!2度と、するな!」
「ッ俺、夢中で…。ごめんなさい」
火宮が危ない、と思ったら身体が勝手に動いてしまったんだ。
自分の身を省みることも、その他の何も考える余裕なんてなかった。
「あぁ。おまえの気持ちも分かっている。だが、俺も同じように、俺の目の前でおまえに何かがあったら、気が狂う」
だから金輪際、こんな恐ろしい真似はやめてくれ、と震える声で呟く火宮の、飾ることのない弱音だからこそ、それは本音で。
「ごめんなさい。でも、無事でよかったです」
「おまえもな」
ぎゅっ、と抱きついた身体を、きゅっと抱き締め返してくれた火宮が、そっと身体を離して俺を見下ろした。
「それにしても、翼。おまえ、声」
「え?」
言われて初めて、俺はそのことに気がついた。
「っ、俺!」
「あぁ」
そろりと喉に触れた手が、小さく震えた。
「声っ、聞こえて、ますか?」
「あぁ、聞こえている」
「っ…俺」
「あぁ。よかったな」
ふわりと笑った火宮の手が、そっと頭に乗って。その温かさに、じわりと視界が滲んだ。
「しかし、俺に危険を知らせるために声を取り戻すとは」
ククッ、と笑った火宮が、それはそれは嬉しそうに顔を綻ばせて。
「可愛いやつめ。今夜は久々に嬌声が聞けるということか」
「っーー!」
だからっ、あなたの思考は、どうしてすぐにそっちと結び付くんですかっ。
旅行中に散々したのに。また今夜もなんて、絶対に俺の身が持たない。
明日起き上がれなくなって、学校をサボる羽目になって、鬼の目付役に叱られるのは俺だ。
「し、しませんからねっ」
「ククッ、そう遠慮するな」
「はぁっ?だから遠慮じゃなくて、本気で勘弁…」
駄目だこれ。完全に人の話を聞く気がないやつだ。
「ん?どうした。あぁ、声が戻った記念に、抜かずの3発希望か」
何を3本締めみたいに、綺麗な顔で下品なことを言ってくれている。
まったくどこまでも火宮は火宮様で…。
「バカ火宮ぁぁっ!」
清々と、思い切り発声してやる。
「クックックッ、それでこそ翼だ」
本当に取り戻したな、と笑っている火宮は、なんだかご機嫌で、やけに嬉しそうで。
「そっか…。何だかんだ言って、心配してくれていたんですよね」
俺の声が出ないこと。
「ククッ、とりあえず、帰ったら1度医者に行くぞ」
「はい」
「それから、今の暴言。やはり今夜は仕置きだな。存分に喘げ」
楽しみだ、と唇の端を吊り上げて笑う火宮を見て、俺はザッと青ざめ、見れば周囲にいた池田以下、護衛の人たちが、目を丸くして固まっていた。
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