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その夜。
俺は、ソファに座った火宮の足の間にちょこんと身を置き、のんびりとアイスを食べながら、後ろの火宮に背中を預けていた。
「んっ、おいひぃ。火宮さんも食べます?」
はい、あーん、と、火宮の肩に仰け反るように頭を倒して、スプーンに掬ったアイスを差し出す。
「ククッ、そんな甘ったるそうなもの…こちらで十分だ」
「んっ、あっ、ちょっ…落ちっ」
顔の前に差し出したアイスをスルーして、火宮が上から覆い被さるようにして唇を奪いにきた。
「っ、あ。はんっ…」
ペロリと唇を舐められ、体勢の苦しさもあって、自然と口が開いてしまう。
その隙間に、ヌルッとした火宮の舌が入ってきた。
「ん、はっ、あっ…」
クチュクチュと、いやらしく音を立てて、火宮の舌が存分に俺の口内を舐め回していく。
「んっ…」
やば…。
ゾクゾクッと湧き上がってしまった甘い痺れに、股間がわずかに反応してしまってギクリとした。
「ふっ、甘いな」
「ふはっ、ん、もう…」
「それに相変わらず感じやすい」
「ばっ…」
スルッと股の間に忍び込んで来た手が中心を撫でてきて、俺は反射的にぎゅぅ、と足を閉じ合わせて、火宮の肩から頭を起こした。
「ククッ、なんだ」
「っーー!アイス!アイス、まだ食べてる途中ですからっ」
いたずら禁止ー!と叫ぶ俺に、火宮がクックッと喉を鳴らす。
「なんだ。今夜もサービスしてもらえるんじゃないのか?」
「なんでですかっ。俺は今日はなんのおねだりも…」
ない、と言おうとして、そういえば豊峰を、うちに置いてくれることにしてくれたんだよな、と思う。
「でも俺が頼んだわけじゃないし」
「ん?」
「藍くん…」
「クックッ、玉砕したか」
「っ…」
可笑しそうに喉を鳴らしながらも、頭をふわりと撫でてきた火宮の手が優しくて、俺は再びトンッと火宮に背中を預ける。
コクンと頷きながら、今日豊峰家で見聞きしたことを、ひと通り火宮に話して聞かせた。
「そうか」
「はい。これでよかったのか、俺には分からないんですけど」
「ふっ、正解など、誰にも分からないさ」
頑張ったな、と、ポンポンと頭を撫でてくる火宮の手に、なんだかホッと身体から力が抜けた。
「いつか、その時選んだ道を、それでよかった、と思える日が来たら…それが正解だったのだと気づくものだ」
「っ…。その『いつか』が、必ず来ると、いいですね…」
「あぁ」
静かに首肯する火宮はきっと知っている。
その時どんなに最善の選択をしたつもりでも、その『いつか』に、取り返しのつかない後悔をする羽目になることがあることを。
だから願う。
豊峰と、豊峰の父親、そして見届けた俺たちの選択が、正しいものであったと、思える日が来ることを。
「ねぇ、火宮さん」
「なんだ」
「火宮さんは…もしも、聖さんのことがなかったら…」
「………」
「将来、何になりたいと…どんな未来を、思っていましたか?」
今でこそヤクザの頭という立場を選んでここに立つこの人の、本来の夢はなんだったのだろうか。
「俺か?そうだな、俺は…」
スゥッと息を吸い込んだ、火宮の肺が膨らむ感覚が、触れた背中から伝わってくる。
ふぅっ、と長い吐息が耳に掛かり、微かな愉悦に震えた火宮の声が、艶やかに空気を揺らした。
「ヤクザだな」
ククッ、という確かな笑い声までもが聞こえてきそうな声だった。
「なっ…俺は真面目に」
「あぁ、だから俺も真面目だぞ」
カプッ、と後ろから耳を甘噛みしてきた火宮に、ビクッとなった。
「ちょっ…」
「俺には、将来の夢も希望も何もなかった。だから…聖のことがなくとも、きっとあのまま街を彷徨い続けて、いずれは七重組長の目にとまって、やっぱりこの世界を選んだんじゃないかと思うぞ」
「っ…」
だからこの人は、未来の夢を見て、希望を持つ人を拾い上げようとするのだろうか。
絶望に、その身も命も投げ打とうとする人間を、拾って希望を与えてみせるのだろうか。
前者は、浜崎や、豊峰。
後者は、真鍋や、俺。
「俺は、ヤクザになる道を選んで、翼と出会って、拾って、愛して…」
「っ、火宮、さん…?」
「だから、他の道など、何1つ存在しない」
「っ…」
「俺の人生は、おまえに出会うためだけにあった。ヤクザ一択だ」
っーー!
なんていう殺し文句だ。
ボトッと手から落ちてしまったアイスがズボンの膝を濡らしても、冷たいとすら気付けない。
「クックックッ、途中で、どんなにか苦しい、身を焦がすような後悔に焼かれても。最後に大きな正解をもらえたら…それまでの一見誤りに見えた選択も、間違いではなかったと、思える…んだ」
そっと胸の前に回ってきた火宮の手が、ふわりと包み込むように俺を抱き締める。
ぎゅぅっ、と徐々に力のこもるその抱擁が、愛しい、愛しいと語っているようで。
「俺も。俺の人生も、火宮さんと出会うためだけにありました。あなたの恋人になる、一択です」
抱き締められた腕の中で、ぐるんと半回転して向きを変えて、火宮の身体にぎゅぅ、と抱き付く。
「ククッ、アイスはもういいのか?」
「バカ火宮」
根に持つなぁ。分かっているくせに。
「ふっ、ここか?ベッドか?」
「んっ、ベッド…」
答えるが早いか、気づいたときにはもう、ふわりと抱き上げられた身体が、ゆらゆらと火宮の歩調に合わせて揺れていた。
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