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愛しい番よ幸せに-弐にしおりをはさみました!
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愛しい番よ幸せに-弐
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奥様はもうお休みで御座います!
と焦ったように追いかける侍女長の言葉を聞き、離れに着いてからは決して葵を起こさないように足音を消す。
そしてそろりと葵の部屋の襖を開ければ、その小さな体を丸めて眠る愛おしい姿。
微かに上下する肩を確認して、ほっと一息ついたところに、流石に小声で、しかしはっきりと俺の行為を咎める侍女長が追いついてきた。
「いけません旦那様!奥様が目を覚まされてしまいます!それに決して奥様には会えませんと何度も!」
「五月蝿い、わかっている。---わかっている」
たった数歩。たったの数歩で手を触れられる、その距離にいるのに。
決して触れることのできないもどかしさに、白くなるほど手を握り込んだ。
3年ぶりに目にした寝顔は、俺の知るまだ幼さの残るものではなくなっていた。なぜこんなに痩せたんだ。こんなにも……、葵はこんなにも小さかっただろうか。こんなにも儚げで、こんなにも切なげだっただろうか。
こんなにも、愛おしかっただろうか。
「嗚呼--。なんて愛おしいのだろうな」
不意に口からこぼれた言葉に、侍女長の諌める声が止んだ。
痛ましげに目をそらす侍女長に一言詫びて、帰ろうと踵を返した時、ふと目に入った窓の外の景色。
月明かりに照らされた、青もみじ。
『鷹仁様、ほら、紅葉が綺麗に色付いていますよ』
「そういえば葵は、紅葉が好きだったな。
---まだ紅い紅葉は無いが…」
窓を開けて、見渡す限りの一等美しい紅葉を1枚、枝から離した。
「---侍女長。これを葵の枕元に」
「かしこまりました」
気付くだろうか。あんな、知らず踏んでしまってもおかしくないような、たった1枚の青もみじに。
「生きてくれ、葵---」
俺をどんなに憎んでも恨んでもいい。
ただ、生きてさえいてくれればいい。
必ず迎えに行くから。
「愛している」
その寝顔を目に焼き付けて、今度こそ俺は踵を返した。
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