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梅雨の告白にしおりをはさみました!
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梅雨の告白
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しとしと雨が降り続き、6月も中頃を迎えた。
「リト、あのさ……。」
「どうした、鉄平。」
「お墓参り、明後日……行くんだけど、予定、空いて、る……?」
「……あたりまえだろう。俺も連れて行ってくれ。」
「……うん。……兄ちゃん、喜ぶよ。」
「……そうか。」
パラパラと雨が降ったり止んだり、ハッキリとしない天気が続き、サロン内は少し古い除湿機がフル稼働している。他の話し声はひとつも無く、紙や衣擦れの音、ペンの走る音だけが響く静かな部屋で、普通に交わされた会話は虚しく響いた。
「聖夜も行くだろう。」
「うん。」
当たり前のように理人が言うと、聖夜は読んでいた本から顔をあげて返事をした。それから、少し考えるようにして「花、どうする?」と聖夜が聞くと、理人は香を見た。
「ああ、いつもの花屋な。あそこ、たしか先月、店を切り盛りしてた婆さんがな、亡くなったんだ。だから墓の近くの花屋に行こうと思ってる。」
視線に気がついた香が、衝撃の報告をする。なぜもっと早く言ってくれなかったのだと理人は思ったが、自分の体調が安定していなかったのが原因だろうと当たりをつけて、口にはしなかった。
「そうか、死んだのか。」
「理人、あのお婆さんと仲良かったもんね。」
しょんぼりとした鉄平がそう言うと、理人は頷き座っていたソファから立ち上がって大きな窓に近づき、雨のふる外を眺める。
「惜しい人を亡くしたな。あの人の花束は、温かかった。」
「……花束が、温かい、ですか?」
窓のそばで今日の授業の復習をしていた桜庭が、理人の言葉を聞いて不思議そうな顔をしていた。
「リョーちゃんは、音が見える人の事知ってる?」
「ええ、何度かお会いしたことがありますが…。」
「確か、女優の門脇 萌(かどわき もえ)さんがそういった能力をお持ちなのだそうですね。」
会話の輪が広がり、アリスも紅茶を配りながら参加する。アリスは芸能界に相当詳しい。なんのドラマの何役の誰が、誰と付き合っているとか直ぐに情報を仕入れて来る。特に刑事ドラマの大ファンで、この間長年キャスティングされていた俳優が亡くなって、その代わりに抜擢された俳優は役に合ってないだの、怜に延々と語って聞かせていた程である。
「そうそう!」
「確か彼女は、音が色で見えるそうですわ。」
「へーやっぱりアリス詳しいね。」
「ありがとうございます。彼女と理人様、なんの関係があるのか伺っても?」
「うん、門脇萌は、音が色で見える。リトは、感情を温度で感じる。」
「なんだそれ、初耳だぞ。」
今まで黙っていた潤も、怜も、流生も反応して、サロンの方々に散らばっていた理人以外の全員が、ローテーブルを囲むソファに集まった。理人は窓の外を見つめたまま、動かない。
「理人、いい機会なんじゃない?」
聖夜が本に栞を挟みながら言う。少しの間を置いて「そうだな」と返した理人は、すっと天井に向かって手を翳した。
「塞げ。」
たった一言そう言うと、クリーム色の壁と天井が薄く緑色の膜のようなもので覆われた。そして爪先でトンと軽く床を蹴ると、絨毯がぶわっと一瞬輝いて元に戻った。
「結界……。」
潤がボソッと呟くと、桜庭は目を見開き、ほかのメンバーもこれから語られることは決して他言してはいけないことなのだと悟った。
「フッ察しが良くて助かる。お前達は、優秀だな。……こんな俺には勿体ないくらいに。」
緑の瞳に怪しい光が宿る。
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