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「なんで勝手に話したんですか…!?」
藍川さんの声が部屋に反響する。
流れていた涙さえ止まり、ぽかんとその人を見上げた。
怒ったその顔は優しい面影なんてなくて恐ろしいとすら思うような表情だった。
吉田さんは一つため息をつくと眉へシワを寄せる。
「悪かった。だけどな、小波には知る権利があるだろ。」
「…まだそのタイミングじゃなかった。」
「コイツが知りたいって言ったんだ。それ以外にタイミングはあるか?」
「知られたくなかった、俺は…っ…俺は、小波くんにだけはあんな昔の事バレたくなかったのに…」
「嫌な言い方はやめろ。お前に非は全くない。何度もそう言っただろ。」
「…そんな慰めいらない。」
藍川さんはヘタリと座り込むと両手で顔を覆い俯いた。
俺の聞いた話はほんの一部でもっとたくさんの話がある。
藍川さんはそんな過去を"知られたくない穢れ"だと思っている。
吉田さんがコツン、とその俯いた頭をこつく。
「勝手に話したことは謝る。お前らにそれなりの信頼関係があると思い込んでいた。…お前らしくない。いつもお前は冷静で笑顔を絶やさないんじゃなかったのか。」
「…それどころじゃないから。」
「そうか。すっかり人間らしくなったんだな。それはそれでいい事だ。…俺は席を外す。今日は帰る。また会いに来る。」
「あぁ、……」
吉田さんがそう言って立ち上がると藍川さんは息を吐くようにして声を漏らした。
空気がどんよりと重くなる。
ふたりを見比べてキョロキョロとしていると俯いていた藍川さんの顔が持ち上がりカクリと首をかしげては
「…あはは、ごめんね小波くん。少し取り乱しちゃった。俺、ええと……この偉い人玄関まで送ってくるから少しだけ待っててくれないかな?」
「あ、…っえ、ぁ…はい、わかりました。」
「ありがとう。それじゃ、お見送りするので帰ってくださいね。」
「お前は本当に気持ち悪いな。」
「貴方に言われたくありません。ほら、早く行ってください。」
「わかってる。…小波、コレを任せたぞ。」
「…え。」
吉田さんが一瞬、悲しそうな顔をした気がした。
背中を押されて廊下へと姿を消してしまう。
俺はただそこに座って2人の背中を見ていた。
壊れたようなあの人は
無理やり 何度も正常なふりをして動くんだ。
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