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廊下ですれ違う知らない人へ笑顔で「お疲れ様です」と言っては頭を下げる。
あちこち闇雲に挨拶をしていると高そうなスーツを着た男の人に呼び止められた。
「ちょっと。」
「…はい?」
「さっきは苦しかっただろう。一般人の言うことは無視しておきなさい。君は十分な才能に見込まれている。」
「ありがとうございます、光栄です。」
「今回もいい話だった。君の話を作品にするのが私は好きなんだ。また良かったら、次の映画も作らせてくれないか?」
その言葉にこの人が今回の映画の監督なんだとようやくわかった。
…と言うことはさっき舞台上で横に座っていた人か。
少し愛想良くしておいた方が"大人"かもしれない。
「僕も貴方に映像にしてもらえるのがすごく嬉しいです。是非、お願いします。…僕の上の人にも伝えておきますね。」
「ありがとう、是非次も。それじゃあまた。」
「はい、それでは。」
嬉しそうに笑ったその人に俺も笑って手を振る。
この人は本当に俺の作品を好きだと思ってくれたのだろうか?
それとも、俺の小説の映像化に毎回関われたらお金になるからだろうか。
わからない。
楽屋の前まで来ると誰もいないと知りながら扉を三度ノックしてから開く。
もちろん誰もいない。
扉を閉めて中へ入ると出ていった時と同じようにお弁当が机の上に乗っていた。
これを食べてお茶を飲むのが普通の人だ。
俺だってそれくらいきっと出来る。
椅子に座って1人きり、お弁当の蓋を開ける。
寂しいよ。
本当はすごく寂しいよ。
「…これが、やりたかった事? 」
逃げるようにこの世界へ帰ってきた。
閉じこもる事も、隠れることも出来ないまま。
ただニコニコと笑っていればそれでいいような気がしていた。
それで、本当によかった?
これが立派な大人の姿?
わからないままお弁当を口へ押し込んだ。
油っぽくて吐きそうだ。
ろくに噛まずに次々と中へ押し込んでいく。
喉が詰まりそうになったら味の濃い緑茶で流し込んだ。
どうしようか。
俺は このままで生きていこうか?
誰も俺を求めていない世界で、俺を差し出し続けようか?
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