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前世の記憶 …3
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前世の記憶が戻ったルシエルは、なるべく子供らしい振る舞いをする様に心掛けた。
まず、勉強が出来ないフリをした。
家庭教師を困らせるのをやめるためだ。
--先生に向かってあの態度はなかった。
と反省するほど、前世を思い出す前のルシエルは先生泣かせだった。
あとは、言葉使いや態度に気を付けた。
使用人に横柄な態度を取るのもやめた。
自分の行いはいつか必ず自分に返ってくる、と、前世の自分が身を以て知っていたからだ。
ただ、我儘はたまに言う様にしている。
突然我儘を言わなくなった我が子を、両親がやけに心配したからだ。
たまに、前世の記憶が波の様に押し寄せては引いて行き、ルシエルを悩ませた。
何か、思い出せていない事がある。
波の向こう。霧のかかった何か。
その霧の奥に手を伸ばそうとすると、必ず頭痛がした。
思い出したくない何かがあるのか。
いや…交通事故にあった時の記憶だろうか?
また寝込みでもしたら家族に迷惑をかけるだろうと、ルシエルはそれを無理には思い出そうとはしなかった。
「私、今日はこのお菓子の気分じゃないわ!別のを持って来て!」
ある日のお茶の時間。
いつもの様にミシェルが給仕に我儘を言う。
隣に座っていたルシエルは、そんなミシェルにやれやれと思いながらも優しく微笑んだ。
「ミィ、だめだよ。せっかく料理長が僕たちのために作ってくれたおやつだもん。ほら、、美味しいよ!」
「そう?なの?…でもこれ、前にルゥが『これは嫌い!』って言ってたお菓子じゃない?だから……」
(うっ、可愛い!)
中身オッサンのルシエルは、自分のために我儘を言ってくれたらしい姉にキュンとしてしまった。
「あれは…あの日はちょっと機嫌が悪くて、お菓子に当たっちゃっただけなんだ。ホントは美味しかったんだよ?」
その頃のルシエルは、本当に我儘だった。
気に入らないことがあれば、使用人に当たり散らす事も当たり前だった。
「あら、そうなの?なーんだ!そっか!じゃ、いいわ」
ツンとしながらも、お菓子を口に運んで嬉しそうにするミシェルを眺めて、ルシエルは幸せな気分になった。
そう言えば、前世では姉とあまり仲良くした記憶がない。
今世ではぜひ仲良くしたい。
金髪紫眼のお人形の様な可愛い姉。
美味しそうにお菓子を頬張るミシェルを見て、ふと前世の姉はどんな人だっただろうかとルシエルは思った。
なぜ、仲が良くなかったのか。
(あ…)
お菓子を口に運んでいたルシエルの手が止まる。
(姉ちゃんだけじゃなくて、親とも疎遠だったのはなんでだったか。……なんか、理由があった。……なにかが、嫌だったんだ。確か、そうだ、結婚結婚って煩くて……)
考えてみても、前世で彼女がいた記憶はない。
会うたびに結婚はまだなのかと言われるのが嫌だった。
(--うっ!…あぁ、まただっ)
前世に意識を向けると、途端にいつもの頭痛に襲われる。
(考えたって仕方ない。思い出したところで、今の僕には関係ないし…。落ち着け。もう考えるのはよそう…っ)
「ルゥ!どうしたの?大丈夫?」
顔をしかめたルシエルに気付いたミシェルが、ルシエルの顔を覗き込んだ。
「え?あ、うん!なんでもないよっ」
前世の記憶があろうとなかろうと、今はこの世に生きている。
平穏な人生を手に入れるために、努力をしようと誓ったルシエルなのであった。
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