アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
ミシェルと恋愛物語 …2
-
「アルフレッド様はもしかして、難しい恋をしていらっしゃるのかしら?」
ミシェルはふふっと笑った。
アルフレッドは何も言わず、ティーカップに視線を落として、普段入れもしない砂糖を紅茶に入れ、スプーンで中身をかき混ぜた。
二人の間に、少しの間、沈黙が流れた。
「…………仮面、パーティ」
「っ!!」
不意にミシェルが落とした爆弾に、アルフレッドはピクリと反応した。
スプーンがティーカップに当たり、カチャリと大きな音を立てる。
その反応にミシェルは扇子を広げて口元を隠し、ニンマリと笑った。
「いつか私に聞かれましたわよね?そういうパーティがある事を知っているか?と。……アルフレッド様はもう気付いていらっしゃるのでは?あのパーティにルシエルが私のフリをして出たことがあるのを」
「……」
「私を見る目と、私の隣を見る目の違い。……何となく感じていましたわ。全て、あのパーティがきっかけだと考えれば、辻褄が合います。ルシエルがあのパーティに出た直後に、私に婚約の話が来たことも。ルシエルが初見のアルフレッド様を意識していたことも。アルフレッド様がランチの度にわざわざ私たち二人を招待されていたことも。他にも色々ありますが、二人のおかしな行動に理由があるとすれば、それが一番しっくり来ますもの」
ミシェルの推理に、アルフレッドは目線を彷徨わせた。
「アルフレッド様は、最初からルシエルに恋をしていたのでしょう?」
「……」
アルフレッドは何も言わないが、その目が語る動揺がYESと言っているのをミシェルは感じて、さらにニヤニヤを抑えられなくなった。
実は、恋愛本好きのミシェルは、高等部に入ってから、ある種の本と出会う。
それは、一緒に読書クラブに入ったハンナから薦められた物語。
男同士の、恋愛物語だった。
初めは衝撃を受けた。こんな世界があるのか!と。
しかしハンナから「戦地に赴く騎士は、長く女に触れる事が出来ない。そんな時に男の友情が恋愛に変わってもおかしくないでしょう?」と力説され、成る程!と、同性愛に理解を示したのだ。
それからは、そっちの物語にもハマり、どこかからそれらを仕入れてくるハンナにこっそり借りていた。
そもそも、読書クラブの裏の顔は「家で読めない本を、図書室の個室を借りて読みましょう」なのである。
家では恋愛物などの娯楽本が禁止されている子女も多かったためだ。
ミシェルはそれを大いに活用した。
平民と王子様の恋愛よりも燃える、いや、萌える、恋愛物語。
それが今まさに現実として目の前に存在していて、ニヤニヤを抑えられることなんてできなかった。
考えてみれば、ミシェルが想像していた男同士のカップルは、アルフレッドのように美丈夫で、ルシエルのように花のような可愛さを持つ男達だった。
(ヤバい!ヤバいわ!鼻血出そう!)
アルフレッドが『愛する』と言う相手は、ルシエルでほぼ間違いないだろう。
ルシエルの方はハッキリしないが、アルフレッドを特別視している事は間違いない。
ミシェルは女の勘で、そこまで察していた。
「大丈夫ですわ。私、偏見はございませんし、止めようとは思いません。もちろん、誰にも言いませんわ」
ミシェルのその言葉に、アルフレッドはゆっくりと顔を上げた。
「なにかお手伝い出来ることがあれば、協力しても良いと思っておりますのよ?」
ミシェルのその申し出に、アルフレッドの目が揺れる。
これは、すでに二人の間に何かあったのでは?とミシェルは感じた。
アルフレッドとルシエルの間にはすでに何かが起こっていて、アルフレッドは助けを欲している状況なのだ、と。
(何?何があったの?気になる!気になるじゃない!!けれど、これはとてもデリケートな問題よ!だから、下手に手出ししてはダメ!ダメよ⁈ミシェル!)
乗り出しそうになった身をゆっくりと椅子の背に押し戻して、ミシェルは一息ついて自分を落ち着かせた。
「ありがとう。……気持ちだけ、受け取っておくよ」
そう力なく言ったアルフレッドに、ミシェルは「おや?」と思った。
「まさか……もうフられましたの?」
「そ、そういう訳では……」
「では、告白はまだですのね?」
「こく……っ、そんな告白なんて……いや、その」
言葉を一度区切ったあと、アルフレッドは大きく息を吐いた。
それから、ミシェルに視線を合わせた。
「そうだ。ミシェルさんの言う通りだ。僕はルシエル君のことを特別に思っている。けれど、告白など……そういう事は考えていないよ」
アルフレッドの目は、真剣そのものだった。
その目にミシェルはたじろぐ。
「どう、して、ですの?」
「……察してくれ」
そう言って再び目線を外したアルフレッドを見て、ミシェルはドキドキした。
不謹慎ながら、今まで読んだ本の中に、同じ様な状況がいくつもあった事を思い出して萌えていたのだ。
アルフレッドは恐らく、男同士の恋愛に対して、逃げ腰になっている。
幸せな未来を想像できず、それを掴む努力をしようとしていない。
いや、どうすればいいのか、分からないのだ。
(男同士だからって、遠慮しなくても良いのに!あぁ、もしかしてルゥ、アルフレッド様に何かしたのっ??)
この場で「ルシエルはあなたの事を意識している」と言うのは簡単だが、それをしてはいけない事はミシェルにも分かっている。
しかし、アルフレッドをどうにかしてあげたくて仕方なかった。
最近元気のないルシエルだって、何も言わないけれど、いや、何も言わないからこそアルフレッド絡みであろうとミシェルは読んでいた。
二人を何とか助けたい。
しかし、考えれば考えるほど、目の前でウジウジしている(様に見える)アルフレッドに、ミシェルはイライラを覚えた。
「あの……告白する気はないとおっしゃいますが、それならどうして私との婚約を破棄されたのですか?私に気を使って?いいえ、結婚にそんなものは必要ありませんわ。アルフレッド様のご身分なら、よーくご存知のはずです。では何故、婚約を破棄したか。それは、アルフレッド様がルゥを好きで堪らないからですわ!私ではなく、ルゥを一番に意識したに他なりません。二人の間に何があるのか存じませんわ。しかし、始まってもいないものを諦めるのは許しません!仮にも私、婚約を破棄された側ですのよ?その私の前でそんな弱気!失礼にも程がありましてよ!!」
ミシェルは、喋っている間にどんどん白熱してしまって、最後は立ち上がってテーブルを叩いた。
その令嬢らしくない初めて見るミシェルに、アルフレッドは度肝を抜かれた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
48 / 166