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旅の恥はかき捨て …5
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荷物を片付けて馬に括り付け、ルシエルが馬に跨がろうとした時だった。
突然馬が暴れて、ルシエルを振り払った。
「ルシエル君っ!大丈夫っ?」
「っっ!大丈夫、です。ちょっと尻餅をついただけです」
ルシエルがすぐに立ち上がってポンポンと土を払う仕草を見せると、アルフレッドは安心したように息を吐いた。
「それにしても、どうしたんだ?」
アルフレッドは、馬を落ち着かせるためにその身体を撫でながら様子を観察した。
「あ、ここ……腫れてる」
アルフレッドが指差した先は、あぶみ(鞍の横にある、足を乗せるところ)のすぐ側。
よく見ると、そこがプックリと膨れている。
「毒虫にでも刺されたのかな。あぶみがここに触れると、痛むんだろう」
「じゃあ……この子に乗るのは無理ですね……」
ルシエルが、帰りは歩きかな、と考えた時だった。
「仕方ない、僕の馬に一緒に乗ろう」
アルフレッドの驚きの提案に、ルシエルは頭を振った。
「いけません!私は歩くので大丈夫です!」
「気にする事はない。この馬は二人くらい余裕で運んでくれる」
「いえっ、そうではなくて……アルフレッド様にその様なご迷惑をかける訳にはいきませんっ」
ルシエルがそう言うと、アルフレッドが目を細めた。
「それはどう言うことだ?僕が君を一人で歩かせるような傲慢な男に見えるのか?」
「そうではありません!」
「では何だ?僕が皇太子だから?遠慮してるのか?」
「……」
黙ったルシエルを見て、アルフレッドはため息をついた。
「それだけの理由なら、簡単だ」
「?」
本当はそれだけの理由ではない。
アルフレッドと二人で馬に乗るという事を想像……できなかったからだ。
「命令だよ。ここにいる間、僕のことを皇太子と思わないように」
「えっ?」
「ここには僕たちしかいないから、誰も君を責めたりしないよ。……そうだな。友達として接してくれれば良い。と言うわけで、問題解決」
「アルフレッド様、それは……」
そんな事出来るわけがない、とルシエルは首を振る。
「なに?一緒に馬に乗るのが嫌なら、一緒に歩こうか?」
「えっ?それは、なりません!……っていうか、そういう事じゃ」
「なら決定だ。陽が落ちないうちに帰ろう」
アルフレッドはそう言ってルシエルの馬を自分の馬に繋ぎ、ヒラリと馬に跨った。
そうして、ルシエルに手を差し出す。
「ほら、おいで……ルシエル?」
「えっ?いえっ!あのっ」
アルフレッドのまさかの呼び捨てに、ルシエルは顔を真っ赤にした。
「ふふっ。何かいいな。僕も呼び捨てで呼んでもらおうかな?」
ルシエルはアルフレッドの差し出した手を見つめるばかりで、どうしていいか分からなかった。
「あれ?乗らないの?……なら、僕も降りて歩くまでだ。歩くとどれくらいかかるかなぁ?陽があるうちには帰れないだろうなぁ」
もう、ルシエルは折れるしかなかった。
「っっ!分かりました!乗りますっ」
ルシエルが恐る恐るアルフレッドの手を取ると、アルフレッドが軽々と馬上まで引き上げてくれた。
その力強さにルシエルはドキドキする。
そして、アルフレッドがルシエルを抱きしめるような形で手綱を握った。
「っ!」
ルシエルは思わずアルフレッドと距離を取るように身体を丸める。
「ルシエル?そんな格好じゃ馬がバランスを取り辛いだろう?僕に背を預けて良いから」
「ですが……」
王太子に背を預けるなんて畏れ多いし、何よりアルフレッドとくっつくのが、ルシエルは怖かった。
「ほら、ちゃんとしないと、振り落とされるよ?」
アルフレッドはそう言って、後ろから抱きしめるようにしてルシエルを引き寄せた。
「〜〜っ」
「よし、いくよ」
アルフレッドが馬の腹を蹴り、出発する。
すると、否応にもバランスを取るために身体を起こさざるを得なくなり、結果、ルシエルはアルフレッドの背に身体を預けるような形になってしまった。
(つ、辛い……)
ルシエルは、背中にアルフレッドの暖かさを感じて困っていた。
さらに手綱を持つため前に腕が回されている事で、後ろから抱きしめられているような感覚がする。
意識しないようにと努力するが、馬上で揺れる事によって生まれる振動が、どうしても変な事を連想させる。
他愛ない会話でもあれば気が紛れるだろうが、馬上のため(舌を噛まないように)ほとんど会話がない事も、ルシエルの妄想の手助けをしていた。
(僕のバカ……僕のバカ……あー、円周率でも唱えよう。いや、元素記号か……)
そうして、ルシエルが身体から意識を離そうとしたところで--
「ルシエル」
アルフレッドがルシエルの耳元で囁いた。
それは、ルシエルの腰に響く声だった。
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